陰謀論とポピュリズム 「反エリート」で高い親和性 科学的根拠の吟味を 中島岳志

2021年6月1日 07時00分
 陰謀論に注目が集まっている。米国では、トランプ前大統領の敗北は選挙に不正があったからという陰謀論が一定の支持を集め、連邦議会議事堂への突入事件を引き起こした。反証を受け入れないこの極右の陰謀論は「Qアノン」と呼ばれ、社会現象になっている。
 米国だけではない。世界各地で陰謀論は一定の支持を集めており、「新型コロナは存在しない」「感染拡大はウソ」という見解が、一部で強い支持を受けている。ワクチン接種に反対する主張の中には、「マイクロチップを人間に埋め込み、人類を管理するための企(たくら)みが進行している」というものまである。
 このような中、『中央公論』5月号や『現代思想』5月号では陰謀論が特集され、広範な議論が展開されている。内田麻理香は「陰謀論を支える人間の『認知バイアス』」(『中央公論』5月号)において、人間の認知のあり方に注目する。人間はどうしても自分の信念や自分が置かれた状況から物事を見ようとするため、記憶や統計学的な誤りを犯すことがある。この「認知バイアス」が、知らない間に自分にとって不快な情報を避け、都合のいい解釈に飛びつく傾向につながり、陰謀論を受け入れる土台となっているという。
 内田は、現在のネット環境にも注目する。会員制交流サイト(SNS)はどうしても閉鎖的コミュニケーション空間になりがちで、自分と近い立場の意見のみが消費される傾向にある。すると「意見や信念が過激で極端になり、多様な考え方を受け入れられなくなる」という「エコーチェンバー」現象が起こる。このような状況も、陰謀論を加速させる要因になっていると指摘する。
 内田は『読売新聞オンライン』(5月16日)に寄せたコメントで、コロナ危機における人々のストレスにも言及する。人々はストレスから解放されたいという欲求から、「黒幕によって仕組まれた」「我慢しなくていいんだ」という非科学的な論理に傾斜しがちだという。そして、自己の見解を否定されると、より強く信じてしまう「バックファイア効果」が起きるという。  
 秦正樹は「『正しい知識』は防波堤になるか?」(『中央公論』5月号)の中で、同様の見解を示す。秦は統計学的な実証研究を通じて、右翼的陰謀論の受容メカニズムを明らかにする。そして、陰謀論にはまり込んだ人に対して「知識がない」「正しい知識を身につけなさい」と批判的に説得しても、逆に態度を硬化させ、「陰謀論的志向性をさらに強化させる可能性がある」と結論づけている。ただし、陰謀論への対処法として、決定的な「特効薬」は見いだせない。これは他の論者も同様で、陰謀論を拡大させないための方法については、統一的合意がなされているとは言えない。
 私たちにできることは、陰謀論の特質について内在的に理解し、その拡大メカニズムを把握することだろう。陰謀論者の運動を取材した國枝すみれは「フェイクを信じ、正しい情報に耳を塞(ふさ)ぐ 陰謀論者の思考とは/後編」(毎日新聞デジタル5月18日)の中で、反エリートという傾向に注目する。國枝は、陰謀論者の特質を「すべての大事件は秘密裏に計画され、実行され、隠蔽(いんぺい)されている」と考える点にあるとし、「陰謀をたくらむのは大抵、既得権益を持つエリートという筋書き」が共有されているという。また、この傾向は、既存のオールドメディアに対する反発へとつながっており、「プロパガンダ機関」や「フェイク」という批判が展開されるという。
 この特質は、ポピュリズムと親和性が高い。ポピュリズムは、政治・経済を独占するエリートへの対抗運動という起源をもつ。ポピュリストは、一部のエリートを既得権益と見なし、敵を明示することで、人々の情動面を喚起しようとする。そのため、特定のエリートによる陰謀というストーリーを描き、「自分たちは隠された真実を知っている」と主張する陰謀論者と合流しやすい。
 これは右派だけでなく、左派ポピュリズムにも見られる現象である。ポピュリズムには、既存の社会的合意に対して「ちょっと待った」と異議申し立てをする重要な役割があるが、科学的根拠に乏しい議論に飛びつく傾向に対して、十分な自制心をもつ必要がある。政府を鋭く批判する左派ポピュリズムが、陰謀論に陥ってはならない。
 (なかじま・たけし=東京工業大教授)

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