五輪と国民との分断の日…丸川五輪相、IOCのコーツ委員長に感じた「自分ファースト」

2021年5月25日 19時39分

◆「五輪は治外法権なのか」

 IOCと組織委による共同会見はコーツ氏がオンラインで参加する形で行われた。私は質疑応答の中盤で司会者から指名され、こう聞いた。「緊急事態宣言下でも開催するのか」と。

無観客で開催された陸上の東京五輪テスト大会=5月9日、国立競技場で

 コーツ氏は「宣言下で5つのテスト大会が成功裏に行われた。答えはもちろんイエスだ」と断言した。これは日本国内も含めて、初めて示された見解だ。IOCが五輪開催を目指すのは当然とは言え、日本がどんな感染状況でも開催すると明言したのには正直、驚いた。
 日本の主権にまでIOCが踏み込んだとも言える。「IOCは一線を越えてしまった」と感じた。会見終了後、ベテランのスポーツ記者も「何の権限であんな事を言えるのか。五輪は治外法権なのか」と憤っていた。
 私は新型コロナウイルスの感染が続くこの1年半、五輪だけでなく、厚生労働省の担当も務めてきた。厚労省で取材する相手は、政府に新型コロナウイルス感染症対策を提言する尾身茂会長ら医療や感染症の専門家たちだ。
 彼らはよくジレンマを口にする。「自分たちの立場で言えば、緊急事態宣言はできるだけ長くやってほしい。しかし経済が止まれば、国民は生活できない。強い対策は最低限にしないといけない」。だから毎日、新規感染者数や病床数の動向を分析し、早朝・夜間や土日を問わずに議論し、ぎりぎりまで政府に提言するタイミングを見極めている。それだけ緊急事態宣言は重い措置なのだ。
 大型連休前後にあったテスト大会。宣言下にもかかわらず、海外選手らは入国後14日間の隔離が免除され、ホテルや車両を貸し切って移動した。コーツ氏が「成功した」と胸を張るのも、政府などの「特別待遇」があってこそだ。
 その期間、全国で毎日100人前後のコロナ患者の命が失われた。飲食店や映画館、ジムなどには休業要請。事業者がいくら「安全、安心」の対策を講じても…。

◆「ダブルスタンダード」への疑問

 五輪の支持率が上がらないのは、感染拡大の不安だけではない。政府は国民には我慢や自粛を強いるのに、五輪に対しては中止の議論すらしない。一方で、政府が選手に入国やワクチン接種の特権を与え、「ダブルスタンダード」になっていることに、多くの国民が強い疑問を感じているからだ。

原田遼記者

 しかし、丸川氏の会見での答えは、こうした国民のいら立ちにまるで答えようとしていなかった。さらに、IOCがこうした特権を当たり前のものとして捉えているからこそ、傲慢とも思えるコーツ氏の発言につながり、五輪と国民との間に埋めようのない溝を作ってしまったように感じる。
 私は5月11日の閣議後会見でも丸川氏に「誰のために何のために、なぜこの夏に開催するのか」と問い掛けた。その答えは「コロナ禍で分断された人々の間に絆を取り戻す大きな意義がある」だった。
 しかしコロナ禍で分断されたのは市中の人々ではなく、市民と権力者であり、社会とスポーツだ。「物の見方が違う」と五輪中止について真剣な議論を求める声を無視して、自らの論理を振りかざす限り、例え2カ月後に開催できたとしても、五輪は祝福されないだろう。
次のページ

関連キーワード


おすすめ情報