県内唯一 常総の公立夜間中学 開級から1年 夢に向かって学ぶ

2021年5月26日 07時11分

授業に取り組む夜間中学の生徒たち=常総市小山戸町で

 中学校の教育課程を学び直す茨城県内唯一の公立夜間中学「常総市立水海道中学校夜間学級」(同市小山戸町)の開級から一年。現在、不登校だった人や外国籍の人ら十〜七十代の二十九人が通学する。さまざまな背景を抱える生徒たちは、それぞれの夢と希望に向かって黒板の前にかじりつく。 (出来田敬司)

■最高齢は75歳

 生徒の顔ぶれは多彩だ。一年生七人、二年生十八人、三年生四人。学力によっては二年生からの入学を認めている。年代は十代が十五人で最も多く、最高齢は七十五歳。国籍は日本人とブラジル人が各八人、フィリピン人、ペルー人、アフガニスタン人、パキスタン人各二人など。
 「『おさけはぜんぜんのむません』じゃなくて、『のめません』だね」
 午後六時すぎにスタートした外国人生徒向けの国語の授業。ブラジル人の会社員デボラ・アウビッチさん(52)=坂東市=が教科書の練習問題に取り組んだ。
 この日の課題は動詞を可能の形にすること。「もつ」は「もてる」、「かりる」は「かりられる」。アウビッチさんは「自分の家で勉強していたが、身に付かなかった。今は先生に教わるのが楽しい」と声を弾ませる。
 風見春杜(はると)さん(16)=坂東市=は吃音(きつおん)症に悩まされ、地元の中学に一日も登校しなかった。それが一転、「勉強したい」「人と接したい」と思い立ち、夜間学級では皆勤を続けている。「言葉が出ず、人と接するのが怖かった。ここでは多くの人が明るくしゃべりかけてくれる。卒業後は高校に行きたい」と目を輝かせる。

■全国で34番目

 常総市の夜間中学は昨年六月一日、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、予定より一カ月半遅れで授業を始めた。全国で三十四番目、県内では初の公立夜間中学だ。
 夜間中学は戦後の混乱期、昼間に働かざるを得ない子どもに義務教育の機会を提供するのが目的だったが、近年は、不登校などで十分に学べなかった人や、日本語の習得に励む在留外国人が主な対象だ。二〇一七年に「教育機会確保法」が施行され、国は都道府県・政令市に最低一校の夜間中学の設置を目指している。
 常総市は食品製造工場などで働く日系ブラジル人が多く、市の全人口に占める外国人の割合は県内最多の9・6%。「多文化の共生」を掲げる市は、近隣の市町からも生徒を受け入れている。

■知恵絞る教員

 もっとも運営に当たる教員の負担は小さくない。数学と教務を担当する小野沢弘之教諭(44)によると、外国籍の生徒の場合、「言葉の壁」と「現地と日本の学習内容の差」が大きく、教える側には発想の転換も必要だ。
 例えば「足し算」「引き算」という言葉は通じず、記号を使って数字が増えたり減ったりすることを伝える。掛け算の九九ができない生徒もいるが、九九の暗記に時間を割かず、電卓を使ってでも中学数学の考え方を教える。
 仕事を終えた後に登校したり、授業の後に夜勤に向かったりとハードなスケジュールをこなす生徒は珍しくない。それでも「学びたいという生徒たちの意欲は、昼間の中学校の比ではない」と小野沢教諭は強調する。授業時間が終わっても、熱心な生徒が教員を質問攻めにする。
 「こちらもどうやったら理解してもらえるかなと、常に生徒の側になって考える。教員本来の仕事はここにあったと感じます」

関連キーワード

PR情報