主権者のいない国 白井聡著

2021年5月30日 07時00分

◆無関心が招いた無策深刻
[評]松尾貴史(タレント)

 表題が日本を指すことは言うまでもないが、主権者たる国民が持つ精神構造に対する痛烈なアイロニーとして辛味がきいている。
 長きにわたる安倍・菅政権下で、これほどまでに信頼も信用もできない人々を、常に三割以上の国民が歪(いびつ)な形とは言え「支持」し続けていることの面妖さは何なのか。不信や無力感がこれほどまでに連続してしまうと、もう飼いならされた私たちは足元が崩れ落ちるのを座視するしかないのか。著者は言う。「完成した奴隷根性と泥沼のような無関心」によって支えられて来た安倍政権からもたらされた不正、腐敗、無能で苦しむのは、国民の「自業自得」なのだと。
 戦後日本が、何を省みて、何を正したのか。憲法で国民主権が明確に謳(うた)われているのに、その効力は生かされているのだろうか。政治家の隠蔽(いんぺい)体質はここ近年、どんどん顕著になり、あるいは常態化して、改竄(かいざん)、廃棄、それ以前に記録すら残していないということを詭弁(きべん)で正当化するエクストリーム(極み)が総理大臣周辺のスタンダードな「様式」にすらなってしまっている。
 東日本大震災からコロナ禍に至るこの十年で、無能、無策の利権屋に実権を握らせ、事もあろうかそれを史上最も長く維持させてしまったのは、紛れもない国民である。強いリーダーシップで、「安倍さんならやってくれる」という錯覚だか幻想だかを抱かせることに成功した彼らは、ほとんど何も成果を上げないまま君臨し続けた。マスコミに対するプレッシャーや、広告代理店との二人三脚が功を奏した部分もあるだろう。私たちは、何を見誤り、どう勘違いをして、それを許してしまったのか。著者による冷静な観察と分析が光る。中でも政治がワイドショー化してしまったことについて、小泉純一郎政権の手法が明快に解説されていて興味深い。
 今年は衆議院議員選挙や東京都議会議員選挙など、本来は主権者であるべき国民が意思表示をする大きな機会が必ずある。その前に、この国の主権者たり得るためにも必読の書ではないだろうか。
(講談社・1870円)
 1977年生まれ。思想史家、政治学者。著書『永続敗戦論 戦後日本の核心』など。

◆もう1冊

 松尾貴史著『ニッポンの違和感』(毎日新聞出版)

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