<社説>香港国安法1年 真綿で首を絞めるよう

2021年5月29日 07時59分
 民主派寄り香港紙創業者の資産が凍結された。中国が香港国家安全維持法(国安法)導入を決めて一年。真綿で首を絞めるように自由な香港の息の根を止める動きが続く。抗議の声を上げ続けたい。
 香港政府は今月中旬、日刊紙リンゴ日報の創業者である黎智英(ジミー・ライ)氏が所有する同紙発行会社の株式や銀行口座など計約五億香港ドル(約七十億円)の資産を国安法により凍結した。
 リンゴ日報幹部は「新聞発行のための財務に影響しない」とのコメントを出したが、同紙は十七日を最後に台湾での発行を休刊。電子版のみの運営にし、三百人の職員をリストラした。経済的打撃が大きいのは間違いない。
 天安門事件に衝撃を受けた黎氏が「香港の自由」を守るため、一九九五年に創刊したのがリンゴ日報である。昨年五月に中国が国安法の導入を決めて以降も、真っ向から中国を批判してきた数少ない香港メディアの一つである。
 人民日報は黎氏を「反中分子のパトロン」と非難してきた。国安法による民主化抑圧の総仕上げの一環として、報道の自由にとどめを刺すための資産凍結であろう。
 黎氏は二〇一九年の反政府デモで違法集会を組織した罪などで実刑判決を受け、服役中だ。昨年の逮捕後の会見では「刑務所に入れられても声を上げ続ける」と意気軒高だったが、リンゴ日報は今、存亡の機にある。こうした時こそ市民は同紙を購読し、香港の自由を守る後押しをしてほしい。
 国安法を後ろ盾に、中国は言論統制以外にも、香港の民主主義を「合法的」に骨抜きにしてきた。
 中国の意を受けた香港立法会は「愛国者以外は立候補できない」とする選挙制度改革案を二十七日に可決した。中国政府への忠誠を条件とする立候補制限は民意封殺であり、選挙の名に値しない。
 香港の裁判所は今月初旬、昨年六月に天安門事件の犠牲者を追悼する無許可集会に参加した罪により、別の罪で収監中の民主活動家の黄之鋒氏に禁錮十月の実刑判決を言い渡した。
 追悼集会は毎年六月四日に香港で開かれてきた。自由な言論や集会が保障された「一国二制度」の象徴だったが、昨年以降、コロナ禍を理由に不許可とされている。
 雨傘運動を率いた黄氏への実刑判決は、事件の記念日を前に、香港市民を威嚇する効果を狙ったものだろう。民主主義の首根っこを押さえ付けられ、苦しむ香港を、国際社会は見捨ててはならない。

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