ヘイトスピーチ解消法5年 露骨なデモ減ったが…やまぬ攻撃「差別を可視化し、実効性ある規制法を」

2021年5月31日 06時00分
 特定の人種や民族への差別をあおる言動をなくすため、国や自治体に取り組みを促すヘイトスピーチ解消法が、6月3日で施行から5年になる。川崎市や大阪市など自治体が条例で対策に乗り出し一定の成果を上げる一方で、ネット上の差別投稿はやまず、被害は後を絶たない。専門家からは、国に効力のある対策を求める声が上がっている。(安藤恭子)

◆街頭でのヘイトは減少

 「在日コリアンや外国人の差別はやめましょう」「どこにも差別主義者の居場所はない」。JR川崎駅前では毎週末、こんなプラカードを掲げて静かに本を読む「読書会」が続く。差別をあおる街宣を止めるため、市民たちが取り組むヘイトパトロール活動だ。

差別をあおる街宣が行われないよう本を読みに集まる市民ら=JR川崎駅前で

 解消法施行を受け、ヘイトスピーチを繰り返す街宣デモが頻発した川崎市では、全国で初めて刑事罰を科す差別禁止条例を設け、昨年7月に全面施行した。東京都など各地で取り組みが進み、首都圏では警察の許可がいるデモや公共施設でのヘイト集会は減り、川崎の街宣でもプラカードから「反日朝鮮人」といった表現が消えた。
 川崎のパトロールに携わるメンバーの1人は「ヘイトを問題と語れる土壌が社会にできたことは大きい」と評価する。

◆全国各地で対策条例

 解消法施行に先駆けて条例を制定した大阪市は、5年間で9件を「ヘイトスピーチ」と認定。ネット上の動画や投稿を削除させ、団体や個人の名を公表した。3年半かかるなど審査の長さは課題だが、担当者は「団体側からも意見を聴いて慎重に当たってきた。条例2年目から被害者の申し出が大幅に減った」と手応えを感じている。
 東京都も昨年の千代田区のデモで、コロナに触れた「武漢菌をまき散らす支那人、今すぐ日本から出て行け」という発言など12件を、条例による「不当な差別的言動」と認めて公表。独自にネット上のヘイト監視や、公共施設の利用を制限する自治体もある。

◆それでも残る課題

 ただ、この間も被害は続いている。今年3月に川崎市の多文化共生施設「ふれあい館」の脅迫事件が起き、化粧品会社ディーエイチシー(DHC)のサイトでの差別文書掲載も問題化した。ヘイト解消法5年の国会内集会で在日コリアンの作家、深沢潮さんは「ヘイトスピーチは形を変えて生きている」と断じた。
 憲法の「表現の自由」との兼ね合いから、条例制定に二の足を踏む自治体も少なくない。条例制定を目指す相模原市の審議会でも5月、ヘイトの規制権限を公権力に持たせることに慎重な意見も出た。
 弁護士や研究者でつくる非政府組織「外国人人権法連絡会」の瀧大知事務局次長は「国にしかできないことがある」と強調する。国内のヘイトクライム(差別的動機による犯罪)の継続的な実態調査や、首相や法相が「許さない」と声明で示すことなどが重要という。「国や自治体が差別を問題と認め、可視化すること、そして実効性のある規制法が必要になる」と訴える。 

 ヘイトスピーチ解消法 2016年5月に成立、同年6月施行。日本に居住する日本以外の出身者や子孫に対する差別的言動を「許されない」と明記し、国や自治体に対策を促している。表現の自由を侵害する恐れがあるとして禁止規定や罰則はない。13年ごろから東京・新大久保や大阪・鶴橋で、一部の団体が「朝鮮人を殺せ」などと叫ぶデモを繰り返して社会問題化。川崎市で15、16年にデモが相次いだことで同法制定の契機になった。

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