インフラ整備と武力、不変の両輪〈中国共産党100年 チベットと「長征」下〉

2021年5月31日 06時00分

5月中旬、中国四川省成都の成都西駅で、すでに開通した「川蔵鉄路」の一部区間(成都西-雅安)を走る「天府号」に乗る乗客ら

 習近平国家主席は昨年11月、四川省成都とチベット自治区ラサを結ぶ「川蔵せんぞう鉄道」の主要区間の起工式で、その重要性を訴えた。
 「国家統一を守り、民族団結を促し、辺境の安定を固め、経済発展を推進するのに重要な意義がある」
 総工費約3200億元(5兆円)は、三峡ダムの約2500億元を超えて中国史上最大となる。険しい地形を時速120~200キロで走り、約1800キロを10時間前後で結ぶ。青海省西寧とラサを23時間で走る青蔵鉄道より大幅に時間が短縮される。
 成都側の一部で開通済みで、全線開通は2030年ごろを目指す。習氏が訴えたように、チベットと周辺地域との一体化を進め、経済発展によってチベット族の不満を和らげる効果が期待される。隣接するインドとの紛争やチベット族の抗議活動が起きれば、即座に兵力を送り込むことも可能となる。
 辺境の地、チベットの統治にとってインフラ整備が生命線であることは、今も昔も変わらない。
 中国建国翌年の1950年、人民解放軍第18軍は、中国共産党の支配が及んでいなかった現在のチベット自治区に進軍する際、四川省カンゼ・チベット族自治州カンゼ県に拠点を置いた。第18軍がラサにたどり着くまでの1年9カ月は「第2の長征」と呼ばれたが、その重要任務の1つはラサにいたる道路「川蔵公路」の建設だった。
 「川蔵公路が通じて初めてチベットは真に中国となる」。カンゼ県の「愛国主義教育基地」の展示は鄧小平(当時副首相)の言葉を紹介する。同時期に建設された青海省からの道路「青蔵公路」とあわせ、兵士ら11万人が動員され、3000人が作業中に命を落とした。当時のスローガンは「苦を恐れず、死を恐れず」。犠牲をいとわない道路建設は輝かしい党史の1ページであり、習氏は冒頭の起工式で「(川蔵と青蔵の)両路精神を奮い立たせろ」とハッパをかけた。
 辺境統治の両輪であるインフラ整備と圧倒的な武力を背景に、中国政府は当時のチベット政府と51年、「17条協定」を結んだ。チベットを中国の一部とする協定の締結について、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世は自伝に「脅迫と銃剣を突きつけられてなされた」と記す。
 それから70年。インフラ整備と経済発展によって党の統治を正当化する政策は長足の進歩を遂げ、21日発表の中国政府の白書は「(自治区内の)道路が計11万8800キロに達した」などと成果を誇る。一方で「脅迫と銃剣」の政策も変わらず、チベット族の大規模な抗議は08年を最後に起きていない。
 党の統治は盤石なのか、自治区出身のチベット族に聞いてみた。長い逡巡しゅんじゅんの末に「人の心をすべてコントロールできるのなら、党の勝利といえるでしょう」と答えた。(カンゼ・チベット族自治州カンゼ県で、中沢穣、写真も)

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