プーチン氏が沈黙する闇たばこ、その実態は…ベラルーシ「独裁者」の影、コロナの増税でさらに人気に

2021年5月31日 12時00分
 旅客機の強制着陸で、ベラルーシが国際社会の非難を浴びている。だが「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領にとって、欧米からの制裁などどこ吹く風。政権には「カネの成る木」があるからだ。独裁者と取り巻きが築いた闇たばこの実態を追った。(モスクワで、小柳悠志)

ロシアに出回るベラルーシ製の闇たばこ=モスクワの「赤の広場」で、小柳悠志撮影

 モスクワの市場のたばこ店。客が胸元のポケットからベラルーシ製たばこの袋を取り出し「同じヤツ」と注文すると、女性店員は心得た様子で「50ルーブル(約74円)」と答えた。客が45ルーブルに値切って交渉は成立。店員がレジ下の棚の鍵を開けると中にベラルーシ製たばこが見えた。

◆常連だけが知る闇たばこ

 「顔は写さないで。厄介事に巻き込まれたくない」と女性店員は言った。
 店側が恐れるのは警察の取り締まり。常連客でなければ闇たばこの存在を明かさない。値切りのテクニックにもよるが、ベラルーシ製闇たばこの小売価格は正規流通たばこの3分の1。ロシアでたばこ税を納めていない品だけに格安だ。
 「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉通り、愛煙家は闇商品に走る。正規流通のたばこは、ベラルーシから密輸される闇たばこに押され、ロシアは毎年100億円以上の税収を失っているとされる。
 ロシアに進出している日本たばこ産業(JT)なども、被害者だ。

ベラルーシのルカシェンコ大統領(左)とロシアのプーチン大統領=昨年9月、ロシア大統領府の公式サイトから

 「驚くべきは、闇たばこビジネスが、ベラルーシの政権中枢によって行われていることだ」と外交筋は打ち明ける。
 ロシアの独立系メディア「プロエクト」によると、ベラルーシでたばこを生産するのは「ルカシェンコの財布」と呼ばれる実業家アレクサンドル・オレクシン氏。ルカシェンコ氏はこうした側近に便宜を図りつつ、見返りを得てきた。独裁者とその周辺が私腹を肥やす現状にメスを入れてきたのが、強制着陸で拘束された記者プロタセビッチ氏だった。
 ベラルーシのたばこ生産量は国内消費の2、3倍とも。ロシアへの闇たばこ供給が政権の金づるになっていることがわかる。ロシアは新型コロナウイルス禍での財政出動のため、たばこ税を今年に入って引き上げた。愛煙家の間で闇たばこの人気はさらに高まる。

◆「持ちつ持たれつの象徴」

 闇たばこの襲来で、公正な市場競争を妨げられ、財政をむしばまれるロシア。ところがプーチン大統領は長年のこの問題に沈黙を続けている。当局が抜本的に解決に動く様子もない。
 というのも、ロシアにとってベラルーシは貴重な同盟国で、対立する欧州連合(EU)との緩衝地帯の役割を果たしているからだ。「ベラルーシで政変が起きるのは困る」と考え、プーチン氏はルカシェンコ氏の独裁を擁護してきた。
 「闇たばこを黙認するのは、ロシアとベラルーシの持ちつ持たれつの関係の象徴だ」と外交筋は強調する。

ベラルーシ
 人口約950万。大半はロシアやウクライナと同じ東スラブ系民族。ロシアと連合国家を組む。大統領のルカシェンコ氏は1994年に初当選してから強権体制を敷き、市民の言論を制限、野党関係者を弾圧している。6選を果たした昨年8月の大統領選では、不正得票が明るみに出て、全土で退陣を求めるデモが起きた。

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