泉 麻人 東京深聞《東京近郊 気まぐれ電鉄》昭和おもいで電車(その5)「青ガエル」が走った東横線(後編)

2021年6月23日 09時57分

コラムニストの泉麻人さんとイラストレーターのなかむらるみさんが、電車に乗って東京近郊の街を旅する「散歩エッセー」です。

東横線の地下化で変わった渋谷の街


 往年の東横線が登場する映画がいくつかある。手元にDVDがあるものを2作紹介しよう。まずは、吉永小百合と浜田光夫の名コンビによる日活青春映画「泥だらけの純情」。後年に山口百恵と三浦友和のコンビで撮られた東宝版もヒットしたが、1963年制作の日活版は渋谷界隈のロケ風景が興味深い。
 チンピラの浜田とお嬢さんの吉永との恋物語を描いたこの映画、渋谷の桜丘あたりの古アパートに住む浜田を訪ねてきた吉永を東横線の乗り場まで送っていくシーンがある。吉永は横浜山手あたりのお嬢さん、という設定なのだが、地上ホームの電車は青ガエルの5000系、63年の映画だから、小1の僕の絵日記(前回紹介)とほぼ同じ頃だ。
 浜田は吉永を一旦見送ったものの、再び電車に乗り込んできて「ボクシングを観に行かないか?」と誘う。2人が入るボクシングの会場は、当時渋谷の井の頭線裏の坂際にあったリキ・スポーツパレス(力道山が立ちあげたスポーツ娯楽施設)だから、つまり代官山か中目黒ですぐに引き返してきたということになる。
 もう1本は、その3年後の66年に作られたクレージーキャッツの映画「クレージー大作戦」だ。刑務所で知り合ったクレージーの7人(ハナ肇は監守)が現金強盗を企てるというストーリー、逃走中に渋谷でクルマを乗り捨てて東横線に乗り込むシーンがある。
 ロケの事情も関係したのか、早朝の1番電車という設定で、実際駅全体もまだ薄暗い。ホームに停まっているのは、青ガエルの5000系だが、先頭車両の番号は5001だから車両的にもまさに1番電車。貸し切りの車両なのだろう、車内もたっぷり眺めることができる。
 こういう60年代の映画に記録された東横線の地上時代の駅は、8年前の2013年3月まで健在だった。地下駅に切り替わる寸前の頃に撮った写真のデータが何点か保存されている。10年足らずの昔とはいえ、眺めてみるともはやなつかしい。

写真は、2013年3月まで地上にあった東急東横線。(泉麻人さん撮影)


 一見して渋谷の東横線らしさが感じられるのが、東口のバス乗り場側の外壁。カマボコみたいな半円型の屋根の下に楕円のような扇のような格好のフェンスが7つほど並んでいる。撮影時の外壁の広告は「ステージファイター」というGREEのゲームのものだが、内壁の方にドコモの「AKBダケ」の広告がしばらく掲げられたのを思い出す。その写真もあるのだが、露出設定がうまくいかず暗いのが惜しい。高橋みなみ、渡辺麻友らしきメンバーの顔がぼんやり確認できる。

旧渋谷駅駅舎のアイコンとして知られるかまぼこ屋根。(泉麻人さん撮影)

 そういえば、そんな地上駅のフィナーレが近づく頃、いつものように仕事場近くの代官山から東横線に乗って渋谷の改札の方へ歩いてきたときに、「タモリ倶楽部」のロケに出くわした。改札口のあたりにタモリさんと鉄道ネタの際の常連さんたちの姿が見えた。
 タモリさんとはほんのちょっと前に顔を合わせたばかりのこともあったので、「あっ、どうも先日は」みたいな感じで軽くあいさつして通りすぎた。少し経って放送を観たとき、そのシーンがまさに“通りすがり”という雰囲気でヌカレていたのが我ながらうれしかった。
 そう、東横線の地上駅、すぐに撤去工事が始まったというわけではなく、線路の溝にフタを被せたスペースでユニクロTシャツセールなんかをやっていた時期があった。たまたま通りがかった僕はトイ・ストーリーのキャラクターのTシャツ(バズを描いた水色のとロッツォを描いたピンク)を買って、どちらかを着てカメラに向かってポーズを取った。
 壁一面にレイアウトされたモニターに、Tシャツを着たUTファンの顔がしばらく映し出されていたのだ。
 その後、駅の南東側に建設された「渋谷ストリーム」のビルの2階のアプローチの一角に、往年の東横線の楕円型フェンスが復刻再現された。ほぼ昔の位置にあたるのかもしれないけれど、ストリームに行く若者たちのなかにコレを見て東横線をイメージする人はあまりいないんだろうな…。
※2013年の地上駅終了の頃を書いた一節です。
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PROFILE


◇泉麻人(コラムニスト)
1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売される。




◇なかむらるみ(イラストレーター)
1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。
https://tsumamu.tumblr.com/






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