浴場建築に新風 デザイナーズ銭湯、個性で勝負 生みの親・今井健太郎さん

2021年6月2日 07時09分

<大蔵湯 町田市木曽町>富士山と雲海の絵(銭湯の写真はいずれも今井健太郎さん提供)

 年季の入った和風の建物に、富士山のペンキ絵。こんなレトロなイメージを覆す個性的な銭湯が、都内で増えつつある。モダンなデザインから「デザイナーズ銭湯」と呼ばれる。草分けとして知られる銭湯専門の建築家が目指していることは−。
 間接照明で明るさを抑えた浴場。金色を基調にした富士山と雲海のタイル絵。足腰のリハビリや水中ウオーキングができる「歩行湯」も。これまで1級建築士の今井健太郎さん(53)は、各地の銭湯で特徴的なデザインや設計を手がけてきた。

今井健太郎さん

 「ただ単に、うわべのデザインを考えているわけではない。機能性を考慮しているのは当たり前。デザインを通じ、土地や時代、店のスタイルなどを具現化している」
 例えば、若者文化の拠点の渋谷区にある改良湯は、黒を基調に、モダンな雰囲気を強く打ち出した。羽田空港に近い大田区のはすぬま温泉は「日本の旅情を感じられるように」と、滝のタイル絵を残し、郷愁を感じられる空間にした。

<改良湯 渋谷区東>明るさを抑え、シックに

 「懐かしくて新しい空間をつくりたい。昔ながらのままで衰退しないよう、新しさも必要。銭湯の伝統や歴史、地域性をなくすのはもったいないし、引き継いでいく」
 銭湯の魅力に気付いたのは、建築事務所のアシスタントだった20代半ば。家賃の安い都内の風呂なしアパートに4年間住んだ。銭湯に通うようになり「毎日リラックスできて、こんなに良いものはない」と感じた。
 「自分なら、こんな銭湯にする」とイメージし、スケッチを描き始めた。銭湯の設計図などの資料が見つからず、巻き尺と鉛筆を手にして、各地の銭湯を調べた。寸法を測り、店主に聞き取りもした。約2年間かけて200近くの図面を書き込み、必要な機能や構造を把握した。
 2000年から3年間、都内の浴場組合のフリーペーパーで「夢の銭湯」をテーマに執筆した。足立区の銭湯オーナーの目に留まり「今までにない新しい風を吹かせてほしい」と改装の設計を頼まれた。モダンなデザインなどが銭湯業界で注目され、徐々に依頼が相次ぐようになった。これまで都内だけで19軒の銭湯を設計した。
 とはいえ、都内の銭湯は経営難や後継者不在などで減り続けている。東京都浴場組合によると、今年4月末現在で489軒。1968年の2687軒をピークに、5分の1以下にまで減ってしまった。
 今井さんは「居酒屋どころか、一部チェーン店のコーヒーよりも安い470円。その値段で気分転換でき、健康と美容に良く、近所の交流の場にもなる。今、都市に求められているものが銭湯にはそろっている」と力説する。
 デザインをする際、目指しているのは銭湯の個性化という。「個性の力で生き残ってほしい。そのための一つの方法として提案している。デザインによって銭湯の存続に貢献したい」と思っている。

<栄湯 新宿区西落合>4色の光の演出

<松の湯 八王子市小門町>黒塀とれんがをイメージ

<吉野湯 江戸川区平井>降り注ぐ自然光

 文・宮本隆康/写真・安江実
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