コロナ禍の郵便投票、権利守るため…でも「なりすまし」どう防ぐ?

2021年6月3日 12時27分
 新型コロナウイルスに感染した自宅・宿泊療養者らに選挙で郵便投票の利用を認める議員立法の特例法案が3日、国会提出される。与野党の多くが賛同しており、今国会中の成立は確実だ。外出制限で投票できない恐れがある感染者らの権利を守れるとの評価の一方、不正が生じることへの懸念も根強く、自治体には不安と戸惑いが広がる。

◆自宅・宿泊療養者全国3万6000人

 厚生労働省によると、コロナの自宅・宿泊療養者は先月26日時点で全国約3万6000人で、2カ月前の4倍に急増した。自民党は「これだけの人が選挙権を行使できない状況を放置するのは立法府の不作為」(逢沢一郎・党選挙制度調査会長)と法整備の検討を加速。先月半ばに特例法案の骨格を固めると、野党にも協力を呼び掛け、提出する同意を取り付けた。
 ただ、25日告示の東京都議選からの適用を優先したため、制度設計は突貫工事になった。自民党は当初、濃厚接触者も対象としたが、正確な把握が困難だとして断念。逆に、海外から帰国してホテルなどに留め置かれている人が投票できないと野党に指摘され、新たに対象に加えた。

◆過去に相次いだ不正、公正さどう保障するか

 憲法が保障する投票権行使の環境整備の必要性は与野党で一致するものの「方法論」を巡る意見の隔たりはある。共産党の田村智子政策委員長は過去の歴史に言及。郵便投票は戦後、広く認められたが、1951年の統一地方選で「なりすまし」などの不正が相次いだのを機に一時、廃止されており「公正さをどう保障するか」と問題提起する。
 74年に再び導入されたが、現在は対象を歩行・外出困難者らに限り、厳格な本人確認など不正防止策も講じている。だが、今回は保健所からの「外出自粛要請書」の提示を原則として求めつつ、一部地域で交付が遅れている現状を踏まえ、書類がなくても例外的に認める規定を盛り込んだ。

◆昨年大統領選、トランプ氏が「不正」主張

 昨年の米大統領選で敗北したトランプ前大統領が「郵便投票で不正があった」と主張したのは記憶に新しく、第三者の監視が及ばない難しさを抱える。法案の与野党協議会に参加した国民民主党の古川元久衆院議員は「なりすまし投票のリスクが絶対にないとは言えないが、投票機会を奪うことの(問題と)どちらを重視するかだ」と説明する。

◆都内の選管「あまりにぎりぎりで準備大変」

 急ピッチの動きを受け、都内の自治体の選挙管理委員会担当者は「大幅に対象者が増えたら、対応できるか不安だ」「あまりにぎりぎりで準備が大変だ」と戸惑いを隠さない。
 法案は、対象者が投票日の4日前までに申請する手続きを明記したが、その後に感染が判明しても利用できないこととなり、不満の矛先は自治体に向く可能性がある。一人暮らしの自宅療養者は自ら外出して投函しなければならないため、職員が回収するかどうかの検討も迫られる。
 全国の選管の運営実態を調査する神戸大の大西裕教授(行政学)は、選挙事務の混乱を避けるため「総務省は対応指針を早く示すことが大切だ」と指摘する。
 立憲民主党は2日、制度変更までの期間が短すぎるとして、法施行を3カ月後にできないか自民党に打診。提出するのは都議選から適用できる現行案のままの見通しだが、与党内には「立民の言い分も一理ある」(幹部)という声があり、国会審議では適用時期も論点になりそうだ。(川田篤志)

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