江ノ電で小学生が重体に 「勝手踏切」で絶えない事故 柵をつくっても別の場所で…

2021年6月4日 06時00分

女児がはねられた江ノ島電鉄の現場。看板は設置されているが、柵は設置されていなかった=神奈川県鎌倉市で

 線路上の踏切ではない場所を地元住民が渡って起きる事故が絶えない。こうした場所は関係者の間で「勝手踏切」と呼ばれ、全国に少なくとも約1万7000カ所ある。鉄道事業者は柵の設置など対策を進めているが、生活道路としての利用実態もあり、いかに安全性を確保するかが課題となっている。(酒井翔平)
 4月26日午前、神奈川県鎌倉市の江ノ島電鉄稲村ケ崎駅から北東約250メートルの線路で、小学3年の女児がはねられ、意識不明の重体になる事故が起きた。自宅から線路を渡ってごみを出した後の帰り道で事故に遭ったとみられる。
 現場は江ノ島電鉄が設置した注意喚起の看板はあったが柵はなく、誰でも立ち入ることのできる勝手踏切だった。
 近くに住む男性(78)は「通勤や通学、買い物のために住民は日常的に使っている」と語る。近くの踏切を利用するには約500メートル迂回(うかい)する必要があるため、80代の女性は「なくなっては困る」と訴える。一方で「横断する際は注意を払っているが、天候が悪いと近くの踏切の警報音が聞こえにくい」と不安を口にした。
 江ノ島電鉄によると、10キロの全区間(藤沢―鎌倉駅)に勝手踏切は89カ所ある。住宅街の合間に線路が通る区間では、線路を横断しないと家に入れない場所さえある。
 線路への立ち入りは、鉄道営業法で禁止されており、違反すると科料となる。運行に支障が出るなどすれば、刑法の往来危険罪に問われる場合があり、2年以上の懲役となる可能性もある。
 ただ、勝手踏切での事故は後を絶たない。4月10日には大阪府富田林市の近鉄長野線の勝手踏切で、小学1年の女児が死亡。長崎県平戸市の松浦鉄道では、2017年4月に70代の男性がはねられ、重傷を負った。
 各鉄道事業者も危険性を認識している。ただ、立ち入らないようにするのは周辺住民の理解を得にくく、立体交差化などと比べてコストが低い柵の設置が対策の中心になっている。
 江ノ島電鉄も柵の設置のほか、代替通路を確保した上で閉鎖などを進めている。担当者は「閉鎖を目指して住民と協議を進めているが、『生活に困るから閉鎖しないでほしい』といった強い意見が寄せられ、対策が進まない場所がある」と説明する。
 国土交通省によると、勝手踏切は1月時点で全国に少なくとも1万7066カ所ある。16年3月から約2000カ所減ってはいるが、同省の担当者は「あくまで各鉄道事業者から報告があった数。把握していない事業者もあり、実態としてはさらに多いだろう」と語る。
 関西大の安部誠治教授(交通政策論)は「柵を設置しても、別のところで新たな勝手踏切ができるケースもあり、いたちごっこになっている。渡ることはリスクを伴うということを横断者に繰り返し知らせていくことが重要だ」と語る。
 立命館大の近藤宏一教授(交通経営論)は「深刻な場所を放置するのは危険だ」と強調。家の玄関口の移動やタクシー代の補助などを例に挙げ「鉄道事業者は住民生活の実情に合わせ、代替ルートの確保や負担の軽減などの解決策を考えていくべきだ」と指摘した。

勝手踏切 国土交通省によると、1月時点で沖縄県を除く46都道府県で確認された。最多は愛媛県の1031カ所。明確な定義はなく、国交省は全国の鉄道事業者を通じて「踏切として認めていないが、線路横断の形跡がある箇所」を集計した。住民が利用していた生活道路が、後に建設された線路により分断された経緯がある。

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