講談師の一龍斎貞山さん死去 古典の王道築き上げ 本格派の芸 奥ゆかしく

2021年6月4日 07時41分

一龍斎貞山さんの高座=2014年

<評伝> 五月二十六日に七十三歳で死去した講談師の一龍斎貞山さんは流麗な読み口、格調高い言葉の響きで観客を魅了した。まさに古典講談の本格派であり、王道の芸を築き上げた人だった。
 二〇一五年、お目にかかった際「一龍斎」の芸について尋ねたことがある。「よどみなく流れるように、すーっと入っていくこと」と答えてくれた。抑揚は控えめなのにリズミカル、柔らかと思えば緊迫感みなぎる。お家芸ともいえる忠臣蔵を扱った「義士伝」、名奉行の裁きを描く「大岡政談」など、その話芸に引き込まれた。
 十九世紀からの「貞山」という名跡を一九七九年に八代目として襲名。「やっぱり重いなと感じました」と振り返っていた。東京大空襲の犠牲になった六代目は本格派の大スター。「お化けの貞山」と呼ばれ、怪談物を得意としていた父の七代目は「奇をてらわず、きちんとした言葉の芸を磨け」という六代目の教えを意識していたという。八代目も精進を重ね、奥ゆかしいと評されるまでの高みに至った。
 五月下旬、NHKEテレ「日本の話芸」で放送した貞山さんの「大島屋騒動」を見た。倒れる少し前、四月前半の収録だったようだ。画面からは少しやつれた印象も感じられたが、品格ある口跡に触れ、充実のひとときだった。それだけに訃報は信じられない。
 長女で弟子の貞鏡も正統派の講談の道を進んでいる。日本語の重みをかみしめた「貞山」の芸は引き継がれていくだろう。険しく渋い表情の引き締まった高座と打って変わって、楽屋ではニコニコと接してくれた貞山さんの姿が忘れられない。 (藤浪繁雄)

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