<社説>土地規制法案 懸念残して成立急ぐな

2021年6月5日 07時18分
 安全保障関連施設周辺の土地利用を規制する法案が参院で審議入りした。衆院審議では立法の根拠が明確に示されなかった。私権侵害や国民監視の懸念を残したまま成立を急いではならない。
 法案は、自衛隊や米軍の基地、原発の周囲や国境にある離島などを「注視区域」「特別注視区域」に指定して土地利用の実態を調べたり、売買の届け出を求めたりする内容だ。施設の「機能を阻害する行為」や恐れがあれば中止を勧告・命令し、従わなければ懲役を含む刑罰を科せるようにする。
 ただ、法律によって規制する必要性や正当性はあるのか。
 政府は、北海道千歳市と長崎県対馬市の自衛隊基地周辺での外国資本による土地取得で住民に不安が広がっていること、各自治体が土地管理を求める意見書を提出していることを根拠に挙げている。
 しかし、野党の調査では意見書提出は十六件にとどまり、千歳、対馬両市は含まれていない。
 防衛省は二〇一三年度以降、全国約六百五十の米軍・自衛隊基地の隣接地を調べたが、運用に支障が生じる事態は確認されていないという。法案は実態を反映しておらず、緊急性にも乏しい。
 最大の懸念は、政府による恣意(しい)的な法律運用を防ぐ手だてが明確にされていないことだ。
 注視区域などをどう指定し、何が機能阻害行為に該当するのか、核心部分が法案に明記されておらず、成立後に閣議決定する基本方針などに委ねられる。
 不穏な外国勢力による土地利用を防ぐとしながら、基地周辺住民すべてに法律の網をかける。米国などの事例と比べても、自国民を対象とするのは極めて異例だ。
 政府側は「個人の思想や信条までは調査しない」と説明するが、自衛隊員らが調査に関与し、公安調査庁などと情報共有する可能性も示唆している。調査対象が際限なく広がり、基地反対運動への弾圧につながる不安も消えない。
 対象区域の土地の売買が敬遠され、価格が下がる事態も想定されるが、補償しないという。
 事故、事件、騒音、環境汚染など過重な基地負担を周辺住民に押しつけた上に、新たな規制や監視の対象にする理不尽は通らない。参院では審議時間を十分確保し、政府は立法根拠などを丁寧に説明すべきだ。それができなければ、法案を成立させてはならない。

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