破天荒 高杉良著

2021年6月6日 07時00分

◆企業に挑んだ作家の自伝
[評]佐高信(評論家)

 オビに「自伝的経済小説」と銘打たれているが、著者の最初の作品となったのは出光興産をモデルにした『虚構の城』(講談社)だった。高杉良という筆名だったため、「内部告発小説」と書かれたりした。それほど内部事情に精通していたのである。当時、著者は石油化学新聞に勤めていて、社長には小説を書くことを明かしていた。社長は励ましてくれたが、内外の反発は想像以上だった。
 安倍晋三を操っていたといわれる今井尚哉(たかや)の伯父の元通産(現経産)次官、今井善衛(ぜんえい)に呼びつけられ、業界紙記者という立場をわきまえないにも程がある、と叱られたりもした。しかし、著者は「出光興産の多くの社員が『よくぞ書いてくれた』と言って、僕に拍手してくれていますよ。企業体質に問題があると僕は思っています」と反論した。
 その後多くの経済小説を書く著者の姿勢がこの反論によく表れている。
 では、なぜ、著者は「最後の作品になるかもしれない」これを書いたのか。
 冒頭の場面にあるように、石油化学新聞に「両国高校卒」と偽って入ったからだった。面接した人間が筆力を惜しんでそう勧めたのである。
 一本気な著者にとって、これが生涯の悔いとなる。松本清張の例もあるしと多くの人がなだめたが、著者はこの作品を発表するまで、どれほど悩んだことか。
 国会議員も経験した中山千夏のエッセイに、「小学校三年中退」「旅役者の子」を二言目には口にする花柳幻舟(はなやぎげんしゅう)と中山が交わす会話がある。
 「幻舟さん、このごろはな、学歴がないというのをあんまり言うと、自慢していることになるねんで」
 「え? ほんまかいな」
 「うん。マトモなインテリは、たいてい大学出たことを恥じとる。無学派を尊重せないかんと思うとる。そやから、あんまりウチらが学校へ行ってへんことを強調すると、萎縮して物も言えんようになる。ま、心のどっかでは、インテリを誇っとるやろけどな」
 この意味でも問題作である。
(新潮社・1760円)
1939年生まれ。作家。著書『金融腐蝕列島』『小説日本興業銀行』など多数。

◆もう1冊

高杉良著『めぐみ園の夏』(新潮文庫)。施設で暮らした著者の自伝的小説。

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