けがに悩み、ライバルに先越され… 山県亮太、逆境乗り越え日本新

2021年6月6日 22時35分

陸上布勢スプリントの男子100メートル決勝で9秒95の日本新記録をマークし、笑顔でポーズをとる山県亮太=6日、鳥取市のヤマタスポーツパーク陸上競技場(代表撮影)

 いくつ「壁」が立ちはだかるのだろう。乗り越えたと思ったらつまずき、立ち上がったら、またすぐに大きな壁がある。山県選手はその都度、自らと向き合ってきた。

◆「100メートル、シンプルだけど奥が深い」

 「けがのたびに考えます。競技の見方や練習のやり方を変えないと。100メートルは奥が深い。シンプルだけど、ちょっとしたことが大きな差になる。それが難しさであり、魅力ですから」
 2016年リオデジャネイロ五輪以降、けがと闘ってきた。17年春の右足首痛から始まり、18年は日本選手権で復活優勝を遂げたが、19年は背中の痛みに悩まされ、6月には胸が苦しくなり肺気胸を発症。右足首の靱帯じんたいも痛めた。昨年は二度の右膝痛に見舞われ、わずか一大会の出場に終わった。
 17年9月には競い合ってきた桐生祥秀よしひで選手(25)=日本生命=が日本初の9秒台を樹立し、先を越された。悔しさを胸にしまい、「おめでとう」と祝福メールを送った。その後もサニブラウン・ハキーム選手(22)=タンブルウィードTC、小池祐貴選手(26)=住友電工=が9秒台をマーク。「焦りそうな時期もあったけど、こだわりを持ち続けてやることが近道だと信じてやってきた」
 昨冬のけがで動けない時期、ストレスで寝付けなくなると、ボイストレーニングを始めた。「呼吸は自律神経に作用する。腹式呼吸というか、息の仕方、吐き方を変えないと」。ゆっくり、大きな呼吸は睡眠時の副交感神経をスムーズに働かせる。週1回、約3時間。防音室で声を出した。

◆初めてコーチつけ、壁を突破

 再びけがをせぬよう、深層にあるインナーマッスルを鍛え、環境面ではこれまで貫いてきた「独学」から客観視できるように初めてコーチをつけた。今季から母校・慶大競走部短距離コーチを務める高野大樹さんの指導を仰ぐ。苦境にくじけぬ心と強い探究心で大きな壁を乗り越えようと、競技に没頭した。
 「故障はしんどい。でも、必ずそこに次、速くなるためのヒント、成長するためのきっかけが隠されている。復帰後の明るい未来を想像して頑張ってきた」
 10日で29歳になる。ベテランがついに「10秒の壁」を大幅に突破し、日本最速の称号を手にした。けがをも糧にし、幾度も立ち上がってきた者の強さがあった。(森合正範)

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