ものづくりの街・板橋 人と町工場つなぐ 交流 シェア工房 亡き祖父の工具が活躍

2021年6月7日 07時09分

代表・砂越陽介さんの祖父の工具などが飾られた「11−1 studio」=いずれも板橋区で

 「ウィーーーン」「トントントン」。都内では大田区と並ぶものづくりの街・板橋区。その豊島区との区境近くに、日替わりカフェ付きのシェア工房「11−1studio(スタジオ)」がたたずんでいる。もとはアイロン台の製作所だったが、昨年九月、誰もがものづくりを通じて交流できる場所に生まれ変わった。

日替わりカフェ付きのシェア工房「11−1 studio」

 五月最後の週末、工房では、調理器具としても使えるロケットストーブを数回にわたって作るイベントが開かれていた。講師が教えるというよりは、参加者みなで仕組みや作り方を調べる。ここで補えない技術が必要なら、他の工場にも相談に行く。参加者で、板橋区内で家具工房を営む斉藤琢磨さん(41)は「ここはものづくりのみならず、地域とつながりたい人たちが集まってくる場所」と魅力を話した。
 工房の名前は所在地の「板橋区南町11−1」から命名。一級建築士でもある代表の砂越(さごし)陽介さん(34)の建築設計事務所も兼ねている。利用者が工具や機械で家具を作ったり、イベントが催されたり。カフェにはスクリーンや黒板もある。
 中央に置かれた棚には、のこぎりやトンカチといった工具がぎっしり。特にかんなは、大きさや刃の位置が多様な約五十個が並ぶ。十年ほど前に亡くなった砂越さんの祖父、西田武彦さんが、宮大工をしていた津軽の実家から持ち込んだ物もあるようで、砂越さんは「使い方がわからない物もあるんです」とほほ笑んだ。

ロケットストーブの原理や作り方を参加者と話し合う砂越さん(中央)

 祖父は一九五八年、アイロン台製造工場を文京区内で創業。同年の台風で被災後、この場所に引っ越した。スチームアイロンの蒸気を処理するため、台の構造などを工夫し、特許を取得したことも。クリーニング機械の修理や販売もしたが高齢のため十五年ほど前に廃業した。
 自身の事務所にしようと、物置になっていた製作所を整理した砂越さん。祖父が残したたくさんの工具を目にし、「活用できる場をつくれないか」と考え始めた。
 地域を知るため、地元の工場や店舗を取材した。後継者不足に悩む人が多く、「このままでは、マンションに変わる店も少なくないだろう。作業音が聞こえるこの街ならではの風景を、残せないだろうか」と、思いをかき立てられた。
 地域には工場と住宅が混在するが、互いの交流は多くない。「例えば、カフェにふらっとやってきた工場のおじさんが、この工具はこうやって使うんだよと、やって見せてくれる。ものづくりで交流できる出会いの場をつくろう」と決意した。カフェでは開業を目指す人などが間借りでお店を開くこともできる。

ものづくりを通じて地域を結ぶ砂越さん

 工房には現在、地域内外からさまざまな人が訪れる。「大事なのは、ここで完結させないこと」と砂越さん。たくさんの工具があっても、全てはそろわない。でも、「ここには困ったときに相談できる人たち、地域がある。地域にある物を活用しながら、活性化できる場所でありたいんです」。
 11−1studioは、火水曜定休(祝日の場合は営業)。現在のところ、工房部分「町CО(コー)場」は午前十時半〜午後八時(会員登録制)、カフェは正午ごろ〜午後七時ごろ(出店者により異なる)。詳細や、砂越さんが取材した各店の記録は工房ホームページから。 
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 文・中村真暁/写真・安江実
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