傷つけられる、心の内は ヘイト解消法5年 深沢潮さんおすすめ 差別を考える6冊

2021年6月7日 07時52分
 差別的な言動をなくそうと、ヘイトスピーチ解消法が施行されて今月で5年を迎えました。しかし、コロナ禍では患者らへの差別が相次いでいます。あらためて差別について考えたいと、作家の深沢潮さんにおすすめの本を紹介してもらいました。

<1>759円

 差別という現象があったとき、その原因を考えるのももちろん大事だが、差別を向けられる人びとの具体的な被害の様子とその心の内を知ることが、理解を深めるのには特に大事なのではないかと思う。

<2>748円

 <1>拙作『緑と赤』(小学館文庫)では、ヘイトスピーチに遭遇した在日コリアンの女子大生やその周辺の人々の心の動きを描いている。一方、差別が常態化した社会においては差別心が内面化する。そのさまを<2>『ひとかどの父へ』(朝日文庫)には書いた。内包した差別心と葛藤する女性が主人公の小説である。

<3>1980円

 差別は多岐にわたり、残念なことに長い歴史もある。日本においていまだ続く女性への差別として、医大の入試女子差別が記憶に新しいが、<3>田中ひかる著『明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語』(中央公論新社)には、医師を目指した明治の女性が遭うさまざまな差別を活写している。そして現在も、制度は整っていても、それを運用する側の人間の差別意識が当時と変わらないことに気づく。

<4>2200円

 <4>金貴粉(キンキブン)著『在日朝鮮人とハンセン病』(クレイン)を読むと、伝染病の患者かつ朝鮮人という立場の人がうける複合差別を知ることができる。聞き書きにより記された本著は、患者ひとりひとりの生きざまと心の内を丁寧に描き、差別というものが根底にある生活の実相を読者に示す。高度経済成長を享受し、平和な戦後を生きる人々から隔たれた、見えなくされてきた患者たちの姿を知ると、差別意識の罪深さのみならず、制度や構造における差別の残酷さを思わずにはいられない。

<5>1760円

 <5>安田浩一著の『団地と移民』(角川書店)は、すでに日本社会が多様であること、そしてそのバックラッシュともいえる差別扇動団体による攻撃と、労働搾取という構造的な差別が存在することを団地という空間によって描き出している。外国人と高齢者の限界集落のようになっている団地に暮らす人々に対する著者の温かいまなざしと、差別者たちの醜悪な行為への憤りが、対比的に行間から伝わってくる。フランスの団地への取材もあり、移民の住居の問題、差別の構造が普遍的であることも知ることができる。

<6>605円

 では、差別に加担する人はどういう人なのか。ナチス政権下で強制収容所の看守をつとめた女性は文盲だったゆえにその職務についたが、差別にもとづく国家的犯罪に加担した人間を果たしてゆるすことができるのか。差別があったとき、だれを、なにを、断罪するべきなのか。<6>ベルンハルト・シュリンク著『朗読者』(新潮文庫)は、非常に重い問題をつきつけてくる小説だ。私は本作を何度読んでも答えが出ない。だからこそ、考え続ける。
 「世界最大の悪は、ごく平凡な人間が行う悪です。そんな人には動機もなく、信念も邪心も悪魔的な意図もない。人間であることを拒絶した者なのです。そしてこの現象を、私は『悪の凡庸さ』と名付けました」という、「上から言われたことをしただけ」と述べたユダヤ人虐殺首謀者アイヒマン裁判後のハンナ・アーレントの言葉が思い出される。軽い気持ちでネットにヘイトスピーチを吐く人、明らかに差別の状況があっても黙って見過ごす人、仕事だからと消極的に加担する人。彼らはどこにでもいる凡庸な人々だ。だが、それらに傷つく人々の心身は深く削られる。
 これら紹介した数冊が、差別というものについて、考え続ける機会になればと思う。
<ふかざわ・うしお> 在日1世の父、2世の母のもとに東京都で生まれる。2012年、「金江のおばさん」で第11回「女による女のためのR−18文学賞」大賞。受賞作を含む連作長編小説『ハンサラン 愛する人びと』(新潮社)でデビュー。近著は『乳房のくにで』(双葉社)。

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