「中国がキムチ文化を盗もうとしている」韓国が猛反発 「単なる食物論争ではない」という訳は?

2021年6月7日 12時00分

白菜を唐辛子で漬け込む中国四川省の李子柒さん=ユーチューブから

 韓国が「国民食」と誇るキムチを、近年、中国が自国文化のように扱う動きが目立つ。韓国では、朝鮮半島の歴史を中国史の一部とみる「文化侵略」だと反発し、対中感情も悪化している。(ソウル・相坂穣)

◆韓国キムチはユネスコ無形文化遺産に登録

 古民家のような場所で、ハクサイを唐辛子で漬ける女性の姿が今年初め、動画サイトで注目を集めた。朝鮮半島のキムチづくりと酷似しているが、女性は中国四川省の農村に暮らす人気ユーチューバーの李子柒リーズーチーさん。動画には「中国の食べ物」と強調するハッシュタグが付く。韓国で「中国がキムチ文化を盗もうとしている」と反発が広がった。
 韓国では、キムチは冬に野菜が不足する朝鮮半島で保存食として生まれた、とされる。韓国語で「キムジャン」と呼ばれる漬け込みは、2013年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。

◆キムチと泡菜は同じもの…国連大使自らエプロン姿でPR

 一方、中国には「泡菜パオツァイ」と呼ばれる漬物がある。葉物や根菜など多様な野菜を塩のほか、唐辛子やショウガなどの薬味を混ぜて漬けるなど多様な製法がある。

今年1月にSNSにエプロン姿でキムチづくりをする写真を公開した中国の張軍国連大使=ツイッターから

 泡菜が昨年11月、国際標準化機構(ISO)の規格認定を受けた後、中国共産党機関紙人民日報系の環球時報が韓国を「キムチ宗主国の恥辱」などと嘲笑し、キムチと泡菜を同一視する主張を展開。今年初めには、中国の張軍国連大使が、会員制交流サイト(SNS)にエプロン姿でキムチを漬けた写真を投稿。華春瑩かしゅんえい外務省報道局長は「泡菜は、一部の国と地域だけのものではない」と強調した。

◆中国の「東北工程」の延長線上か

 中国が仕掛けたキムチ論争を韓国国立ハンバッ大の孔錫亀コンソクグ教授(歴史学)は「単純な食べ物論争の枠を超えていると捉えるのが韓国側の立場。中国が2000年代に進めた『東北工程』の延長線上にある」と分析する。東北工程は、古代、朝鮮半島から中国東北部にかけてを支配した高句麗を独立国ではなく、中国の地方政権だったと中国史で位置付ける国家事業で、韓国側は猛反発してきた。
 孔教授は「中国には、北朝鮮情勢など北東アジアで起こる秩序変化に備える意図がある。今後も、専門的な歴史を超え、一般大衆に影響する文化面で攻勢をかける可能性がある」と指摘する。
 韓国のネット上では3月、中国で上半身裸の男性がプールのような場所でハクサイを漬ける動画が拡散。外食産業で多用される中国産キムチへの不信感が広がった。韓国政府は5月、中国産の289品目のうち15品目から下痢、頭痛などの原因となる食中毒菌を検出したと発表した。

◆中国内の朝鮮族は心境複雑…

 複雑なのは、朝鮮語を母語とする中国の少数民族・朝鮮族。ソウル市内の定食店で出稼ぎ中の50代の朝鮮族女性は「実家で昔からキムチを食べて育った。中韓がキムチでけんかして、『中国産キムチは汚い』と食べ残す韓国人客が増えていて、悲しい」と話した。
 東アジア研究院(EAI)などの調査では、中国に敵対感を持つ韓国人は5年前の16%から40%に上昇しており、キムチ論争で中韓の感情的対立が深まる可能性もある。

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