パワハラで社員自殺のトヨタ、遺族と和解で改善誓う 人事制度など組織風土にメス

2021年6月8日 06時00分
 トヨタ自動車の男性社員=当時(28)=が、パワーハラスメントが原因で自殺したことを巡り、トヨタと遺族側で和解が成立した。豊田章男社長自ら遺族に謝罪して約束した再発防止策には、人事評価のあり方など、組織風土の根本に踏み込む内容が盛り込まれた。過去のパワハラに関する情報共有の欠如など、浮き彫りになった致命的な課題の解消も急ぐ。 (安藤孝憲)

◆「起こる前に止める」社長が決意

 「2度とこうしたことを起こさせない、起こる前に止めるということをやりとげるまで頑張っていく」。和解が成立した4月7日、豊田社長は男性社員の遺族宅を訪ね、そう話した。遺族には、自殺を報道で知った2019年11月にも直接謝罪。その直後からトップ主導で調査徹底と再発防止策の検討を進めてきた。
 再発防止策は相談体制の強化など大きく5項目。社内の相談窓口は従来もあったが、メールアドレスの暗号化などで完全な匿名性を担保し、パワハラを目にした第三者も声を上げやすくした。兆候を早く発見できる仕組みを整え、人事制度改革など組織風土の改善にも同時に取り組むとした。

◆社内の連携不足を反省

 男性社員にパワハラをした上司は、過去に別部署でのパワハラ事例があったことも職場で認識されていた。加えて、男性社員は自殺する前に、産業医らにパワハラ被害を訴えて休職しているが、問題の上司のさらに上役の管理職らは、男性社員が自殺するまで、休職の理由がパワハラだと認識していなかった。
 こうした社内の情報共有や連携の不足は遺族が特に問題視した点で、トヨタ幹部は「異動時などに評価情報をしっかり引き継ぐなど対策の徹底を約束した」と話す。また、別の幹部は、調査の中でこの上司について「上位者(上司)と下位者(部下)では評価が違うことに驚かされた」とも述べ、評価のあり方自体を見直す必要性を強調した。

◆課長級以上1万人の適性判断

 トヨタの従業員は単独で約7万人、連結で約36万人に上り、課長級以上の管理職は約1万人いる。トヨタは昨年から、この約1万人を対象に「360度評価」を実践。上司や部下、関係する他部署の社員、場合によっては社外も含め十数人から評価を聞き、仕事上の能力に限らず「人間力」を重視した評価基準に改めた。適性がないと判断すれば昇格を見合わせたり、管理職から外したりする場合もあり、関係者によると、実際にそうした事例が既に出ているという。
 今後5年間、男性社員の遺族に再発防止の取り組み状況を報告するとトヨタは約束した。遺族は7日、代理人を通じて「トヨタが本当に変わったといえるのか今後も注視したい」とコメントした。
  ◇    ◇    ◇

◆10年で2倍…パワハラ増加の一途 防止法1年、効果に限界も

 職場でのパワハラは今も後を絶たない。厚生労働省によると、全国の労働局に寄せられたパワハラに関する相談件数は右肩上がりに増加。2019年度は8万7570件で、10年度(3万9405件)の2倍超に達した。 (岸本拓也)
 政府は20年6月に改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)を施行。大企業にパワハラ禁止を就業規則に示すことや、従業員の相談窓口の設置、予防のための研修を義務づけた。22年4月には中小企業にも拡大される。
 違反企業には行政が是正指導や勧告し、従わない場合は企業名が公表される。ただ罰則や禁止の規定はなく、ハラスメントを刑事罰などの制裁付きで禁じる諸外国と比べると「甘い」運用と言える。19年には三菱電機の新入社員がパワハラを苦に自殺。さらなる規制を求める声は根強い。
 パワハラの労働相談を受ける「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」(東京)には、防止法施行後も相談が相次ぐ。新型コロナウイルス禍でのテレワークの普及などで、対面でのパワハラに関する相談は減ったが、テレワークのテレビ会議中に上司から私生活のことを聞かれるなど、新たな相談事例も出ている。
 センターの千葉茂代表は「法律でパワハラの社会的な認知が深まったことは前進だ。一方で何がパワハラに当たるかが依然として曖昧で、居直る企業もある。法改正で罰則規定を盛り込み、抑制効果を高める必要がある」と指摘する。

関連キーワード

PR情報

経済の新着

記事一覧