東京地検特捜部が菅原前経産相を一転略式起訴したワケ

2021年6月9日 06時00分
 東京地検特捜部が8日、当初は不起訴とした菅原一秀前経済産業相(59)を一転して略式起訴した背景には、市民からなる検察審査会の「起訴相当」議決がある。特捜部が再び不起訴とし、その後の強制起訴公判で有罪となれば、検察批判が起きかねない。特捜部は自ら起訴することを迫られ、再捜査で違法な寄付金額を積み増した。菅原氏には、全面降伏することで裁判所に公民権の停止期間を縮めてもらいたい思惑も透ける。(小沢慧一、三宅千智)

◆消極的だった検察「罪問う必要あるのか」

 「検察審査会の議決を踏まえて再捜査し、金額や同種事案との均衡などを考慮し判断した」。東京地検の山元裕史次席検事は、8日の臨時記者会見で略式起訴とした理由を説明した。
 法務・検察内では当初の捜査時、「菅原氏は違法な寄付が一部あったことを認め、謝罪している。親しい人への香典や枕花まで罪に問う必要があるのか」との声が聞かれた。
 元法相の河井克行被告夫妻が現金約2900万円を配ったとされる公選法違反事件と比較し、「選挙前に大金をばらまくこととは悪質性が全く違う」と話す検察幹部もいた。
 特捜部は昨年6月、30万円の寄付を認定しながら「法軽視の姿勢が顕著とは言い難い」として不起訴(起訴猶予)に。ただ、検察内には「検審で覆される可能性はあるだろう」との声も漏れた。その予感は今年2月に的中。検審は「起訴相当」と議決し、再捜査を求めた。

◆「公判開かれれば有罪」懸念、書面審理へ

 「なんでもかんでも起訴すればいいというものではない。額や態様からして起訴を猶予すべきだと思うが…」。ある法務省幹部は検審の議決に首をひねった。
 ただ、特捜部が再び起訴猶予としても、検審は2度目の審査でも起訴議決とする可能性がある。そうなれば検察官役の指定弁護士が強制起訴し、公判が開かれることになる。
 ある検察幹部は「寄付があったことに争いはない。公判が開かれれば有罪になるはずだ。起訴猶予は間違いだったと批判される」と懸念。別の幹部も「検察が政治家をかばった、と見られかねない」と危ぶんだ。
 特捜部は再捜査で新たな現金配布疑惑をつかんだ。香典や枕花も加えた寄付総額は、線香五十数万円分を配ったとして仙台地検が2000年に略式起訴した小野寺五典元防衛相の額を超えた。検察は略式起訴で罰金刑を求める方向に傾いた。略式起訴は書面審理で罰金などを求める手続きだ。

◆刑事処分前に辞職、情状狙いか

 国会議員は罰金以上の刑が確定すれば失職し、公民権も原則5年間停止となる。原則通りであれば、菅原氏は今年10月までにある次期衆院選だけでなく、その次の選挙にも出られない可能性が高い。
 菅原氏は周囲に罰金刑を受ける覚悟を示すとともに、刑事処分前の辞職を決断。着目したのが、「裁判所は情状により公民権の停止期間を短縮できる」とする公選法の規定だった。ある裁判官は「情状を判断する際、辞職は考慮される」と説明する。
 菅原氏に近い関係者は「本人も今後の政治活動は厳しいと感じているようだ。ただ、可能性は残したかったのだろう」と話した。

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