<社説>専門家の警鐘 なぜ真剣に向き合わぬ

2021年6月9日 08時16分
 感染症の専門家が鳴らす警鐘に政府はなぜ真剣に向き合おうとしないのか。危機感が欠如していると言わざるを得ない。
 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長=写真=が、東京五輪・パラリンピックの開催に伴う感染拡大への懸念を繰り返し表明している。
 三日の参院厚生労働委員会では「パンデミック(世界的大流行)で(大会を)やるのは普通はない」と指摘。流行が続く中で国民の理解を得るには開催目的を明確にして対策を講じるよう求めた。
 尾身氏ら感染症の専門家は、開催のリスク評価や対策などの提言を近く独自にまとめる考えだ。
 しかし、田村憲久厚労相は「必要なもの、参考になるものは取り入れさせていただく」と言いつつも「自主的な研究成果の発表だと受け止める」と正式提言と認めようとしない。提言を受け入れれば、五輪開催が難しくなると、敬遠しているようにも見える。
 菅義偉首相は感染症対策は「専門家の意見を聞いて判断する」と繰り返してきた。都合が悪いと耳をふさぐのでは五輪への国民の理解はとても得られまい。
 政府は、大会開催の可否を決める感染状況について基準を示していない。それが国民を不安にさせていると受け止めるべきだ。
 しかも、五輪開催は全国の流行状況にも影響を及ぼす。
 尾身氏は、選手や大会関係者だけの感染症対策では不十分だと言う。人出が増える要因に(1)全国から観客が移動する(2)パブリックビューイングなどのイベントに人が集まる(3)お盆や連休と重なり都市部から地方に人が動く−の三つを挙げた。
 五月の大型連休に旅行者が増えた沖縄県や北海道ではその後、感染が拡大した。五輪を国全体の感染対策の中に位置付け、具体策を検討すべき段階だが、観客を入れるのか無観客かさえ決まっていない。地域医療に与える影響についても見通しすら示されていない。
 政府からの諮問がない中、感染症の専門家があえて提言に踏み込むのは異例だ。首相はその危機感と向き合い、共有すべきである。

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