<ねぇねぇちょっと 特別編>子育て終了 心に「穴」 上手に子離れ 心構えを 今こそ「自分磨き」の時 

2021年6月9日 10時44分
 下の息子が大学を出て就職し、心にぽっかり穴があいた感じ−。読者の悩みに読者が答える毎週土曜日のコーナー「ねえねえちょっと」で、子育てを終えた愛知県のあじフライさん(57)からの相談を五月八日に掲載したところ、同じような経験をした女性らから多くの助言や励ましの声が届いた。親は子育てに励みつつ、上手に子離れするための心構えを持つことも大切なようだ。 (海老名徳馬)

◆ボランティアやおしゃれ

小学校で読み聞かせをする北條多美江さん

 三人の子どもを育てた岐阜県下呂市の北條多美江さん(80)は「相談者のお気持ちがとてもよく分かる。私も同じだった」と共感する。夫の始めた家業が軌道に乗った頃、一番下の子が高校を出て社会人に。「するべきことがなくなって、空虚感に襲われた。一カ月ほどは頭がからっぽだった」と当時を振り返る。
 周りを見る余裕ができると、「自由な時間ができた」と気持ちが切り替わった。手軽に自宅でもできるボランティアをしようと、新聞で目にした朗読ボランティアの人に連絡を取って勉強。視覚障害者のために行政の広報紙の内容をテープに吹き込む活動を始めた。
 次第に仲間が増え、地域の小学校などで絵本を読み聞かせる活動にも挑戦。今は毎月数校に出向くほか、地域の独居老人に弁当を配る活動などにも取り組んでいる。「可能性は無限に広がっている。焦って何かをしようとするよりも、やりたいことをじっくり探してほしい」と呼び掛けた。
 介護の仕事をしながら四人の子どもを育てた愛知県津島市の女性(58)は、子どもたちが社会に出てから、自分の服や化粧品を買うことが増えたという。「自分で使うお金は自分で稼がないと、と仕事を頑張る気持ちも増した」と明かす。
 新しい親子の関係づくりを提案する意見も。同県蒲郡市の女性(59)は「お子さんから仕事上の悩みや楽しみを聞けば、子育てとは違う大人同士の付き合いができる」と説く。同県岡崎市の女性(49)は「数年もすれば息子さんが将来のお嫁さんを連れてくるかも。未来のお孫さんと遊ぶには体力もいる。続けられそうな運動に挑戦するのも楽しいはず」と応援の声を寄せた。

◆やりたいこと箇条書きに 「目標」定め、追い掛けて

自分の目標ややりたいことを書いている豊崎礼子さんのノート

 「子どもからあえて手を離し、代わりに『自分の目標』を追い掛けて」。三人の子どもを育てた経験を冊子や新聞紙上で発信している福井市の豊崎礼子さん(50)は、こう呼び掛ける。
 豊崎さんは、一番下の息子が来年、関東地方で就職する予定。寂しさを感じるものの、自分の両親が畑仕事や読書にいそしむ姿を見て、「親が幸せなら子どもは安心して自分の道を歩ける。年を取っても幸せな姿を見せることが親としての一番の役割」と考えるようになった。
 「本を出す」という目標を掲げて、子育て経験をつづったエッセーを地元の日刊県民福井に自ら持ち込み、昨年四月から先月まで計五十八回連載。自分の毎日を充実させることに努め、よほどの用事があるとき以外は子どもと連絡を取らないという。
 「好きなことを書くと頭に残り、心が整う」。迷いや寂しさを感じたら「何がしたいのか、何ができるか」を紙に箇条書きにすることを勧める。「執筆業で収入を得る」から「おいしいチーズケーキが食べたい」まで思うがままに。「子どもが自立したのは、愛情を持って育ててきたから。まずは自分をたくさん褒めてほしい」と願う。

◆空の巣症候群 専門家に聞く

 どうすれば上手に子離れができるのか。子育て終了後、親が寂しさや孤独感にさいなまれないための方法を専門家に聞いた。

◆育児熱心、真面目な人は要注意 「あゆみクリニック」院長・宮沢あゆみさん 

 子どもの自立に寂しさを感じて精神的に不安定になる状態は、ひなが巣立った後の鳥の巣になぞらえて「空の巣症候群」と呼ばれる。子育てに熱心だった母親に多く見られ、真面目で責任感が強い人や、趣味を持たず内向的な人は特に陥りやすいとされる。
 女性の心身の悩みに詳しい「あゆみクリニック」(東京)院長の医師、宮沢あゆみさん=写真=は「子育てに人生をかけてきた人ほど『自分の人生は何だったんだろう』と喪失感とむなしさを感じ、生きていく目的が分からなくなる」と説明。症状が悪化すると自殺を考えてしまう恐れもあるので「何事にも関心を示さず、社会との関わりを絶った場合は要注意」と強調する。
 子育て後の寂しさを和らげるために、「自分のために時間を使って」と助言する。習い事や趣味に打ち込んだり、運動でストレスを解消したり、資格取得などの勉強をしたり。特に寂しさが募るときは「巣立つことがなく、ずっと自分を頼ってくれるペットを飼うと癒やしになる」と勧める。
 夫など周りの人も注意が必要だ。うつ状態に陥った人には「しっかりして」などと励ますのではなく、悩みや愚痴を聞いて寄り添い共感することが大事。「生きる目的を見失い、症状が悪化した場合は、早めにカウンセラーのいる心療内科を受診して」と呼び掛ける。

◆防ぐには自分に時間、お金使って ライフコーチ・ボーク重子さん

 空の巣症候群にならないためにはどうしたらいいか。米国で「ライフコーチ」として女性の人生設計などを支援しているボーク重子さん(55)=写真=は「子育て中に自分を磨いて社会とのつながりをつくり、自分の道を生きるすべを身に付けてほしい」と説く。
 「自分にお金を使うよりも子どものために」と考える親も多いだろうが、「子育てに一番大事なのは母親の笑顔。笑顔でいるためには自分に時間とお金を使わなければいけない」とボークさん。例えば週に1回はカフェや映画に出掛けるなど、「好きなことを諦めない姿勢が自分の人生を守ることにつながる」と話す。
 ただ、収入がなければ、やりたいことを続けるのは難しい。ボークさんは「経済的な自立を目指す姿勢も必要」と強調。産休や育休、時短勤務などの制度を生かして、できるだけ仕事を続けるよう呼び掛ける。専業主婦にはパートを推奨。「自分が何に向いているかを見つけるためにもいい」と提言する。カフェや映画代を稼ぐなど、身近な目標を立てると一歩を踏み出しやすいだろう。
 「人生100年時代」ともいわれる現代。子育てを終えた後、親だけで過ごす時間は昔に比べてぐんと長くなった。ボークさんは「いい娘、いい妻、いい母が求められてきたこれまでと違う女性の生き方をつくり出していく時代。今の子育て世代が確実に女性の未来を切り開いていく」とエールを送る。

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