観光ビザでワクチン接種できず…コロナ禍で祖国に帰れない ソロモン諸島から昨年2月に来日の2人

2021年6月9日 11時54分
 日本人に嫁いだ家族の最期をみとるため昨年2月にソロモン諸島から来日したイザベル・トシアさん(71)と息子のバナバス・ヌヌさん(37)が、新型コロナウイルスの影響で祖国に帰れないままになっている。ソロモン諸島政府が日本を「コロナ危険国」と認定した上、帰国の条件となるワクチン接種が受けられていないためだ。5000キロ離れた母国に家族を残し、焦りを募らせる。 (昆野夏子)

白藤シンデレラさんをみとった後、母国ソロモン諸島に帰れない状態が続く(左から)兄バナバス・ヌヌさんと母イザベル・トシアさん。右はシンデレラさんの夫謙一さんと娘の亜南ちゃん(左)、二架ちゃん=愛知県豊橋市で

 亡くなったのは、愛知県豊橋市の白藤シンデレラさん(享年34)。ソロモン諸島で農業を教えていた白藤謙一さん(44)と結婚後に来日し、謙一さんが豊橋市役所に勤めたのをきっかけに2013年に同市に移り住んだ。亜南ちゃん(11)と二架ちゃん(8つ)の2人の娘にも恵まれた。
 18年に子宮頸がんが判明。余命が短いと分かった昨年2月、「故郷の家族に会いたい」と訴え、母イザベルさんと兄バナバスさんが観光ビザで来日した。家族に囲まれながら、同年5月4日、息を引き取った。葬儀を終え、帰国したかったが、ソロモン諸島政府が日本を危険国とし、日本からの入国を認めなくなった。
 今年5月中旬、ソロモン諸島名誉領事館から連絡があり、帰国の条件に「ワクチンの2回以上接種」が示された。だが、日本政府は観光ビザで入国した外国人の接種を想定しておらず、2人が接種できるめどは立っていない。
 名誉領事館に他の方策を聞いても「現時点ではどうしようもない」と言われた。厚生労働省に何度か電話したが、「お待ちください」という自動音声が流れるのみで、担当者につながらなかった。市に問い合わせても、担当者からは「観光ビザの人にどうしたらよいのか、厚労省の通達がないので分からない」との返答だったという。

亡くなった白藤シンデレラさん=家族提供

 2人はビザ延長を繰り返しながら、謙一さん宅に身を寄せる。心配した謙一さんの知人から経営するトマト農園に招かれ、「気分転換に」と勧められた農作業を手伝う日々だ。
 イザベルさんは「農作業できるのはありがたいけれど、本当はとても帰りたい」と語る。バナバスさんは祖国に妻と3歳の息子を残したままで「テレビ電話もないので、息子は私の顔を忘れてしまったかもしれない」と悲しむ。それでも「今はトマト農園で技術を学び、帰国後に役立つように頑張りたい」と前を向く。

◆厚労省の指針なく…

 厚労省は、住民登録のある外国人はワクチン接種の対象と説明する。オーバーステイで在留資格を失った外国人も、個別で各自治体に相談すれば接種資格を得られるケースがあるという。しかし観光ビザで来日した人を対象に加えるかは、指針を示していない。同省担当者は取材に「観光ビザで入国した人のワクチン接種実績はない。やむを得ない事情があれば接種できるよう個別に検討する方針だが、相談されたことはない」と話す。
 外国人の人権問題に詳しい丹羽雅雄弁護士は「感染を食い止める意味でも、長期間日本に滞在しているのであれば、接種の対象に加えるべきだ。政府はルールを示した上で自治体に通達しなくてはいけない」と指摘した。

 ▽ソロモン諸島 オーストラリアの北東に位置し、南東約1700キロにわたり1000以上の島々が並ぶ国。人口約65万人で、英語かピジン英語が主要言語。日本との直行便はなく、パプアニューギニアかオーストラリアで飛行機を乗り継ぐ。首都ホニアラがある同国最大のガダルカナル島は、太平洋戦争の激戦地として知られる。

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