IOC委員を「はらぺこあおむし」に見立てた風刺漫画に出版元社長が意見 「センスのなさ露呈、猛省を」に込めた真意は

2021年6月9日 18時51分
 五輪利権と国際オリンピック委員会(IOC)幹部らの関係を皮肉った風刺漫画「はらぺこIOC」を巡り、パロディの元になった人気絵本「はらぺこ あおむし」(エリック・カール作)出版元の偕成社(東京都新宿区)が、漫画を掲載した毎日新聞と作者の表現姿勢を問う意見書を公式サイトに公開した。9日朝からツイッターで「風刺漫画のあり方」がトレンド入りするなど、大きな反響を呼んだ意見書に、今村正樹社長(68)が込めた真意とは-。(福岡範行)

◆バッハ会長らをあおむしに見立て

「はらぺこ あおむし」をモチーフにした風刺漫画が掲載された毎日新聞の朝刊紙面

 発端は、毎日新聞5日付け朝刊の「経世済民術」に掲載された風刺漫画「はらぺこIOC 食べまくる物語」。パロディのもとになった絵本は、生まれたばかりの小さなあおむしが葉っぱやリンゴやカップケーキなど、子どもたちの大好きなものをモリモリ食べて大きくなり、最後は美しい蝶へと姿を変えるというお話だ。
 問題となった風刺画は、IOC幹部を食欲旺盛なあおむしに見立て、バッハ会長、コーツ氏、パウンド氏ら3匹の顔をしたあおむしが、「放映権」と書かれた「ゴリンの実」をむさぼる様子を描いている。リンゴ一つ一つに「放」「映」「権」と書かれ、傍では菅義偉首相そっくりの人物が「犠牲が必要!?」と言いながらリンゴ(ゴリン?)の木にせっせと水をやる様子も描かれている。バッハ会長の顔の横には「東京で会いましょう」の文字。5月に作者が亡くなったことを踏まえ「エリック・カールさんをしのんで…」と、追悼を示す添え書きがある。
 毎日新聞のサイトによると、作者はイラストレーターのよこたしぎさん。1998年から同欄に風刺漫画を描いている。

◆「風刺は引用する作品全体の意味を理解してこそ」

 意見書は7日付けで、偕成社のウェブサイトに今村社長名で載せた。「表現の自由、風刺画の重要さを信じる」と強調した上で、今回の表現のあり方を疑問視した。

偕成社の公式サイトに掲載された意見書の冒頭

 その中で「はらぺこ あおむし」の楽しさを「あおむしのどこまでも健康的な食欲と、それに共感する子どもたち自身の『食べたい、成長したい』という欲求」と指摘し、「利権への欲望を風刺するにはまったく不適当」と主張。「風刺は引用する作品全体の意味を理解したうえでこそ力をもつものだと思います」と訴えた。

絵本「はらぺこ あおむし」(エリック・カール作、もりひさし訳、偕成社)

 今村さんは取材に「絵本は最後にきれいなチョウチョになるのがポイント。IOCの貪欲さ、強欲さの表現で、たくさん食べるところだけつまみ食いするのはないんじゃないかと思った」と語った。

◆予想外、ツイッターで広がる称賛

 今村さんによると、当初、毎日新聞のウェブサイトを通じて意見を伝えたものの、すぐに返事がなかったことから文書を公開した。ただ、意見書が広く読まれるとは思っておらず、予想外の反響に驚いた。今村さんは「ことを荒立てたかったわけじゃない。『猛省を』という言葉を使ったが、抗議文ではなく意見書です。毎日新聞さんの意見もお聞きしたい」と話し合いを希望する。今後、毎日新聞の担当者と会う予定だという。
 ツイッターでは、抑えた筆致で問題点と思いの丈を伝える今村さんの書きぶりに「冷静にガチギレている」「品位は落とさず、かつ怒りの強さは和らげることなく、見事に釘を刺している」「出版社の矜持を見た」といった称賛の声。パロディーについては「風刺する側にはそれ相応の理解力とセンスが必要」「偲んで描く内容では決してない」などと批判が噴出した。一方、バッハ会長らをあおむしに見立てたことに対し、「この面々が元ネタでは『満腹の末に美しい蝶に変身する結末』を迎えるとかまさしく風刺じゃないか」と理解を示す意見もあった。

◆風刺漫画の改善を願って

 今村さんは、風刺漫画という分野について「寸鉄人を刺す鋭さがあり、個人的には好き」と話す。今回の問題提起も、風刺漫画の表現が高まることを願ってのことだ。「(昨今の風刺漫画は)全体的に軽く、問題の捉え方も表面的だと感じます。今回は典型で、言いたいことはわかるが、他に材料があるんじゃないか」と述べた。
 毎日新聞社社長室広報担当は、取材に対し「掲載した風刺漫画は肥大化するIOCに対する皮肉を表現した作品です。今回のご指摘を真摯に受け止め、今後の紙面作りに生かしてまいります」とコメントした。
 偕成社が公式サイトに掲載した意見書はこちら

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