演劇で後半生キラリ 全団員70歳オーバー 「自分の限界 決めない」

2021年6月10日 07時17分

石川佳代さん(左)と上村正子さん=さいたま市の彩の国さいたま芸術劇場で

 高齢者のみで結成し、世界的な演出家の故蜷川幸雄さんに指導を受け、演劇を上演してきた劇団「さいたまゴールド・シアター」。新型コロナウイルスの影響で、彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市)を拠点にした本来の活動はできずにいるが、団員たちはできる範囲の活動を意欲的に続けている。舞台の上でライトに照らされた人生の後半は、まだまだ輝き続ける。 (神谷円香)
 東京都練馬区の石川佳代さん(77)が入団したのは六十一歳の時。娘三人を育て、それまでは趣味を持つ余裕もなく働いてきた。芝居の経験はなかったが「やるなら奥が深いものを」と応募。選ばれた時は驚いた。
 蜷川さんは素人の団員にも厳しく指導した。「プロを目指せ。こっちも本気でやる」と言われ、発声トレーニングなどに懸命に取り組んだ。プロのけいこ場も見せてもらった。「一番うれしいのは千秋楽が終わった後の拍手。でも、けいこ場にいると生きている感じがして、作っていく過程が面白いと思えた」
 七十代に入ると体力の低下も感じたが、「自分で限界を決めてしまったらもたない」と思う。「定年になってから楽しそう」と娘たちも言ってくれる。コロナ禍で今年予定した本公演は中止になり、改めて「けいこ場での時間は幸せだったな」と実感する。
 劇団では、公演が打てなくても団員の活動の場を模索している。フランス文化を発信する仏政府公式機関「アンスティチュ・フランセ日本」(東京)と連携し、「社会とアートにおける老女の表象」というオンラインプログラムを五月下旬から開始。石川さんら女性団員十七人が文学作品を朗読する音声を、動画投稿サイト「YouTube」で無料で聞ける。
 朗読に参加する上村(かみむら)正子さん(73)=東京都台東区=は、若いころから演劇の道に興味があったが、決断できずに就職した。結婚し子育てが落ち着いたころ「しゃべるのが好きなので」と司会者派遣の事務所に所属。五十代からはモデルの仕事を始め、高齢者劇団の募集を知った。
 憧れていた演劇の世界に入り、けいこは大変だったが「どれもやりたかったことばかり。できなくても落ち込まず、挑戦するのが面白い」と思えた。「私は五十八歳で入ったが、八十歳から参加した人もいる。老いを迎えている感覚はまだないんです。下降線という感覚がない」と話す。
 七月には東京・赤坂で、他の主催者の演劇作品に出演する。年相応の役のオーディションに合格し、年下の俳優たちと舞台に立つ。「演劇は心を揺さぶられる感動を与えてくれるもの。生きていく上で必要なもの」と感じている。

◆埼玉拠点 故蜷川幸雄さん創設

2013年の第6回公演「鴉よ、おれたちは弾丸をこめる」=宮川舞子さん撮影

 さいたまゴールド・シアターは2006年、「年を重ねてきた人だからできる新しい表現」を目指し、彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督だった演出家の故蜷川幸雄さんが創設した。対象は55歳以上で、全国から1200人超の応募があり、蜷川さんが選考した48人で劇団が発足した。
 団員は1年間、舞台での発声法や動き方、ダンス、殺陣などのレッスンを受け、07年に第1回公演を上演。年に1度のペースで公演を続けてきた。13年には、4月に死去した劇作家の清水邦夫さん作「鴉(からす)よ、おれたちは弾丸(たま)をこめる」で、初めての海外公演をパリで行い、称賛を浴びた。
 今年2月に予定した3年半ぶりの本公演「聖地2030」は新型コロナウイルスの感染拡大で中止に。団員の追加募集はしておらず、現在は70〜95歳の34人(男性9人、女性25人)が所属する。

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