<歌舞伎評 矢内賢二>歌舞伎座「六月大歌舞伎」など 大評判の「孝玉」 ふたたび

2021年6月11日 07時20分

「桜姫東文章」の仁左衛門(右)と玉三郎 ©松竹

 東京・歌舞伎座第二部の「桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)」は、四月に大評判となった「上の巻」に続いて「下の巻」を上演。片岡仁左衛門は病み衰えてなお桜姫に執着する清玄の哀れさを、一方の権助では男くさい色気と愛嬌(あいきょう)とを対照的に見せる。坂東玉三郎の桜姫は、岩淵庵室の場での花道の引っ込み、「毒食わば」のせりふが印象的。権助の容貌が変わるのを見て己の因果をさとり、覚悟を極める心が鮮烈に表れ出る。風鈴お姫となっての女郎姿はまことにすっきりとして目を奪われる。公家言葉の混じる鉄火なせりふにはまるで衒(てら)いがなく、ごく自然にこの女性の奇怪な人生を想起させて見事。
 第三部の「日蓮─愛を知るひと─」は「日蓮聖人降誕八百年記念」を謳(うた)う一幕。かつて歌舞伎のレパートリーの一つであった日蓮記物とは全く異なり、比叡山で修行を積み、法華経による衆生の救済を決意するまでの若き日の日蓮を描く。演説尽くしの感があるが、シンプルな大道具が効果的で、市川猿之助の日蓮をはじめ、市川猿弥の阿修羅天、市川笑三郎の賤女(せんじょ)、市川右近の善日丸、市川弘太郎の麒麟(きりん)坊が好演。日昭を演じる中村隼人はせりふのキレがよくなり、役者ぶりが上がって見えた。九十一歳の市川寿猿の矍鑠(かくしゃく)たる姿と声がうれしい。二十八日(十七日は休演)まで。
 国立劇場の歌舞伎鑑賞教室公演は「人情噺文七元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)」。尾上松緑の若々しい長兵衛が新鮮で、娘への愛情や職人らしい短気と矜持(きょうじ)が明確。中村扇雀の女房ともイキが合って終幕が盛り上がる。中村魁春の角海老女房、市川団蔵の和泉屋清兵衛がいずれも立派。二十三日(十四日は休演)まで。(歌舞伎研究家)

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