<社説>パワハラ自殺 再発防止に力尽くせ

2021年6月11日 07時26分
 トヨタ自動車の男性社員=当時(28)=が二〇一七年に自殺したのは「上司のパワーハラスメントが原因」だとして労災認定されたことを巡って、同社が、遺族と和解した。当初、トヨタ側の反応は鈍く、パワハラが原因と認定されてから、遺族がメディアに訴える経緯もあった。和解により、遺族に誓った人事評価の改革など再発防止策の着実な実行を求めたい。
 男性社員は会社の寮で自ら命を絶った。遺族はその後のトヨタの対応を不十分と感じ、一九年十一月、新聞に詳細を公表した。その時点で、豊田章男社長のもとには、男性の自殺の詳細が伝わっていなかったほか、労災認定までの経過報告もなかったという。社内での危機感の無さと情報共有のまずさが浮き彫りになった。
 新聞報道の直後、豊田氏はすぐに副社長と二人だけで謝罪に赴いた。今年四月にも豊田氏は再度遺族と面会し、謝罪をするとともに徹底的な職場改善を誓った。
 和解条項は、遺族の意向を全面的にくみ取り、パワハラを無くす断固とした組織改革の実行を約束した。今後五年間、進捗(しんちょく)状況を遺族に報告することも明記した。
 男性の自殺を巡る調査の過程で、パワハラをしていた上司が過去にも同様の行為を他の社員に繰り返していたが、人事情報の中で共有されていなかったことも明らかになった。
 さらに、この上司と男性の関係についても詳細が職場に知らされておらず、該当部署では男性が体調を崩して復帰した後、この上司と別のグループになったものの、同じフロアで席も近い場所に異動させる配慮の無さもあった。男性は当時「(上司の)目線が気になる」と漏らしていたという。その後、男性は自死を選んでしまう。
 今回の事態を受け、トヨタは人事評価制度を刷新した。管理職の勤務評価をする際、上司や部下、同僚など三百六十度で評価するシステムを導入した。人事評価などの個人情報も一元化した。本人のほか家族などからも通報できる窓口を設置。各部署ごとに職場相談員の配置も進めている。
 パワハラは厳しい指導との線引きが難しく、各企業でも対応に苦慮している。毎年の春闘で、労使交渉のリード役として注目されてきたトヨタだからこそ、パワハラ防止でもリーディングカンパニーになることを期待したい。

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