藤井二冠の強さはこれだ! 『藤井聡太論』刊行の谷川浩司九段がズバリ 王位防衛戦29・30日から

2021年6月11日 19時00分
 将棋の藤井聡太二冠(18)=王位、棋聖=の初防衛戦となる第92期棋聖戦5番勝負が今月6日に開幕し、続いて「お~いお茶杯第六十二期王位戦七番勝負」(東京新聞主催、伊藤園特別協賛)も29、30日に始まる。プロをも魅了する将棋で、次々と最年少記録を更新する強さの秘密は何なのか。折しも新書『藤井聡太論 将棋の未来』(講談社)を刊行した将棋界のレジェンド、谷川浩司九段(59)に尋ねた。

藤井聡太王位について語る谷川浩司九段

◆抜群の精神力

 「藤井さんが初タイトルを獲得した昨年の棋聖戦第4局は本当に驚いた。優勢になってから、安全勝ちでなく最短距離の勝ち方を目指し、気持ちのぶれが全く見えなかった」。谷川九段の驚きは、その実体験に由来する。1983年、史上最年少の21歳で名人を獲得した。快挙まであと1勝に迫った対局時の心境が、本書に記されている。〈決め手が見つかった瞬間、手が震え、息が苦しくなった〉〈私の心は緊張と安堵と歓喜の間をぐらぐらと激しく揺れ動いていた〉
 棋士にとって究極の目標であるタイトルを前にしても顔色一つ変えない藤井王位の「精神面における強靱さ」。それを培ったのは、14歳でのデビューから、メディアに注目され続けた経歴にあると、谷川九段は分析する。「ほかの棋士が一生かけてもできない経験を積み、それを成長の糧にした。10代で既にベテラン棋士だといえる」

昨年の王位戦7番勝負第1局で、谷川浩司九段(中)は立会人として藤井聡太二冠(左)のタイトル挑戦を見届けた

◆桁外れの「頭の体力」

 大先輩の目に留まった強さの秘密はまだある。両者は公式戦で2回対戦している(藤井王位の2勝)。盤を挟んでみて実感したのが、桁外れの「頭の体力」だという。「持ち時間各6時間の順位戦で、続けて1時間半を超える長考をされた。長時間の対局だと途中で少し休みたくなるのが普通だが、彼は相手の手番でもずっと盤面に向かい考えている」。こうした長考は、その対局で実を結ばなかったとしても「長い目で見た時、必ず大きな成長につながる」と強調する。

◆新しい手探しを楽しんでいる

 ほかにも新書では「局面の急所を捉える力」「対応力と柔軟性」といった藤井二冠の特長を指摘。その上で、強さの背景には一貫した姿勢があると説く。「とにかく将棋が好きで強くなりたい、真理を究めたいということ。長考中も、次から次に新しい手が見え、楽しくてしょうがないんじゃないか。彼にとっては、タイトル戦も研究会の対局も同じなのだと想像します」
 副題の通り、本書ではAI(人工知能)の発達で激動期にある将棋界の未来についても論じた。「棋士が1時間考えた手も、AIによってすぐに判断されてしまう時代。対局者も解説者も、覚悟を持って臨まなくてはいけない」と語る。また「AIによって棋士のレベルは高くなった。特に中盤、終盤のねじり合いが長く続く傾向にある。そういう魅力的な将棋を見ていただきたい」と、ファンへの思いも口にする。

◆強い相手と戦い、さらに強くなる

 「本を執筆した8カ月の間に、藤井さんはまた予想を超える活躍をした。まだ書き尽くせなかったところはある」との言葉通り、若き才能は進化の途上にある。棋聖戦の挑戦者は渡辺明名人(37)=棋王、王将。王位戦は豊島将之竜王(31)=叡王。初防衛戦で棋界最高位の2人を同時に迎え撃った例は過去にない。「厳しい戦いになるわけだが、彼は楽しみにしているはず。強い相手と番勝負で戦うことが一番成長につながる」と、谷川九段はその心中を代弁した。この夏、藤井王位のさらなる飛躍が見られそうだ。 (樋口薫)

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