おとなになってはみたけれど 飛田和緒(ひだ・かずを)著 

2021年6月13日 07時00分

◆年を重ねるのは楽しい
[評]池田園子(編集プロダクション「プレスラボ」代表)

 年を重ねるって楽しいことだったんだな…。五月で三十五歳を迎え、改めて思う。「年を“取る”のはいやだな」と感じていた時期もあったが、それがだんだん変わってきたのは、素敵(すてき)な背中を見せてくれる「おとな」たちのおかげである。
 海辺の家に暮らす人気料理家の著者もそのタイプのおとなで、いきいきと年を重ねている人のひとりだ。十年ぶりの刊行となるエッセイ本で綴(つづ)られるのは、仕事に食、暮らし、おしゃれ、モノ、日々の話。
 「もう十分な年になりました」との意味を込めて、書籍タイトルに「おとな」を用いたという著者は「おとなになったなあ」としみじみと思う瞬間をこう綴る。経験を積んで周りが見えてきたからか、「ありがとう」を素直に言えるようになったとき…。
 あとがきの「正直ちょっぴりあがいてはいるけれど、年を重ねるのは楽しい」から滲(にじ)み出る人間らしさは人を惹(ひ)きつけるものだ。
 こちらを朗らかな気持ちにさせるおとなに憧れる。彼らはいつだってやわらかさを纏(まと)っていて、真っ直ぐだ。素直さと謙虚さも持っている。
 「切手の楽しみと手紙」では、先輩からお叱りを受けた話が披露される。かつては切手が好きで筆まめだったが、年末年始を慌ただしく過ごす年が続き、いつしか手紙をもらっても自らは筆をとらなくなっていた著者。そんな折、先輩から、突然便りがなくなるのは失礼であり、書かないなら事情を記して手紙の付き合いを終わりにするのが礼儀ではと、指摘されたのである。
 自らの振る舞いを見直した著者は、「わたしは苦言を呈してくださる方に恵まれている」と、諸先輩方への感謝を述べる。著者を魅力的なおとなたらしめるのはこの謙虚さであろう。「先輩から教えてもらったこと」からも、ニュートラルな状態で、教えを糧にしようとするスタンスが伝わる。
 心身が変化していく中で柔軟性を携えて、素敵なおとなたちからの「ギフト」を受け取り、「年を重ねるのは楽しい」と心から言えるおとなでありたいなあと思える一冊だ。
(扶桑社・1650円)
1964年生まれ。料理研究家。著書『季節を味わう保存食手帖』など。

◆もう1冊

松浦弥太郎著『おとなのまんなか 新しいことはまだまだ、できる。』(PHP文庫)

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