78歳の韓国人大学生、日本語を学ぶ 済州島歴史研究の一環「過去にとらわれずもっと知りたい」

2021年6月12日 12時20分
 韓国最大の島、済州チェジュ島にある済州漢拏ハルラ大で、78歳の権武一クォンムイルさんが若者に交じって日本語の習得を目指している。地理的にも日本と近く、古代からつながりが深い済州島の歴史を研究する権さん。「日本にも済州に関する文献がある。日本語を学んで研究を深めたい」と、晩学の夢は始まったばかりだ。 (済州島で、中村彰宏、写真も)

78歳で済州漢拏大に入学した権武一さん

 済州漢拏大は日本の短大に相当する専門大学で、権さんは今春、高齢者らを対象にした特別枠で観光日本語科に入学した。コロナ禍で授業はオンラインと対面を併用し、現在は週2回通学。通訳や旅行業を目指す10代、20代のクラスメートとは会員制交流サイト(SNS)で情報交換する。「この年齢になって、若い人たちと一緒に勉強できるとは思っていなかった。本当に楽しい。大学に来ると自分の年齢を忘れてしまうほどだ」と笑う。
 日本統治時代の1942年、ソウル近郊の京畿道キョンギド生まれ。名門のソウル大哲学科、大学院を経て鉄鋼大手のポスコなどで働いた。何度か済州島を訪れるうちに豊かな自然や本土とは異なる歴史、文化に魅力を感じ、「人生の最後は済州で暮らしたい」と退職後の2004年に移住。済州を舞台にした小説や歴史書の執筆活動を始めた。
 済州島には、古代から中世にかけて古代王国の耽羅たんら国が存在した。日本書紀にも記述が残っているが、韓国には文献が少なく、権さんは中国語を独学でマスターし、中国の資料を主に研究してきた。これからは日本の文献も参考にしたいと、知り合いだった観光日本語科の鄭礼実チョンイェシル教授に相談したところ、「権さんは聡明そうめいで、好奇心も旺盛だから今からでも遅くはない」と入学を勧められたという。

韓国・済州島の済州漢拏大で5月、鄭教授から日本語を教わる権武一さん(右)

 第2次世界大戦時、2人の兄が日本に徴兵され、次兄は戦死した。「なぜ兄は死んだのか考えたこともあるが、戦争に引きずり込んだのは日本でも、結局は韓国という国に力がなかったからだ。大きな世界観で見れば、韓国も日本も中国も同一の文化圏」と、過去の問題や感情にとらわれるのではなく、日本についてもっと知りたいと思ったという。日本語の勉強は、漢字は読めるものの「聞き取りが一番、大変。平仮名や片仮名を覚えても忘れることも多いが、新たな言語を学ぶのは面白い」と話す。
 鄭教授は権さんについて「熱心に学ぶ姿は、若い学生にもいい影響を与えている。時間はかかるかもしれないが、このまま勉強していけば日本語の文献も読めるようになる」とエールを送る。
 目標がある。5年前に静岡県で開かれた国際フォーラムに参加。約2200年前に中国・秦の始皇帝の命で不老長寿の霊薬を求めて韓国や日本を訪れたとされる徐福について発表したが、その時は韓国語だった。
 「もっと勉強して、次は日本語で発表したい。韓国と日本は今は関係が良くないが、歴史的にも緊密な関係がある。たくさんの日本人と交流を深めたい」

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