「自宅でワクチン打ってほしいのに」 高齢者の自宅接種、使用期限や医師の負担壁に

2021年6月13日 06時00分
 高齢者への新型コロナウイルスのワクチン接種が進む中、寝たきりなどで外出が難しい人への対応が課題となっている。政府や多くの自治体は、希望する高齢者が訪問医に自宅での接種を頼めば対応できると想定しているが、応じない医師もいる。背景には、ワクチンの使用期限内に複数の患者宅を回らなければならないといった負担の重さがあり、自治体は対応に苦慮している。(大野暢子)

◆在宅接種は例外的な扱い

 東京都葛飾区には「自宅で打ってほしいのに担当の医師に断られた」という区内在住の高齢者の声が複数寄せられている。
 65歳以上を対象とする高齢者接種は主に(1)市区町村が実施する集団接種(2)かかりつけ医による個別接種(3)自衛隊や都道府県が運営する大規模接種会場での接種―で進んでいる。いずれも入院・入所先での接種でない限り、接種場所まで行く必要があり、在宅接種は例外的な扱いとなる。しかも、ワクチンの特性がハードルを高くしている。
 自治体での高齢者接種に用いられるファイザー製ワクチンは開封後、生理食塩液で希釈し、常温で約6時間以内に使い切る。一瓶当たりの接種回数は5~6回で、期限を過ぎれば廃棄しなければならない。接種後に副反応が出ないか見守る必要もある。

◆「6時間でどれだけ患者宅を回れるのか」

 葛飾区の疋田ひきた博之・新型感染症予防接種担当課長は「ワクチンの取り扱いが難しい上、接種後の経過観察も必要。6時間でどれだけ患者宅を回れるのかという問題もある」と指摘する。
 葛飾区は近く、民生委員や介護事業所を通じ、外出が困難なのに、在宅接種ができていない高齢者の実態把握を始める。
 別の区の担当者は「医師らのチームを高齢者施設に派遣し、接種したことはあるが、すぐに在宅接種には適用できない」と語る。施設での接種は、余ったワクチンを従事者に回すなどの対応ができたが、自宅を一軒一軒回る場合は難しく、綿密な事前計画が必要だ。「区として在宅接種に乗り出せば『私も在宅が良い』と言う人が出かねない。公平性の観点からも、すぐには在宅接種の支援はできない」という事情もある。
 厚生労働省が自治体向けに作成したワクチン接種の手引には、在宅接種をどのようなケースで行い、どのような配慮が必要かといった具体的なガイドラインはない。同省老人保健課の担当者は、在宅接種の在り方について「実施主体である自治体に考えてもらう」と話すにとどめた。

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