暗号技術とAIの融合 個人情報守りつつ分散データ解析が可能に 政府のビッグデータ利活用を後押し

2021年6月13日 06時00分

暗号技術や女性研究者としての経験などを話すサイバーセキュリティ研究所の盛合志帆所長=東京都小金井市で

 政府は成長戦略としてビッグデータの利活用を掲げるが、個人情報保護との両立が欠かせない。国立研究開発法人「情報通信研究機構(NICT)」のサイバーセキュリティ研究所では、個人情報を守りつつ、複数の組織が持つ情報を統合して解析する技術を開発。銀行間に分散する取引データを活用し、ニセ電話詐欺などの検知システムの精度向上に役立てている。研究所の盛合志帆所長に仕組みを聞いた。(小嶋麻友美)

◆顧客情報を外部提供する不安が解消

 「複数の組織が持つデータの中身を分からないようにしたまま、それぞれが学習した結果をクラウド上で統合することで、大量のデータを集めて人工知能(AI)の学習モデルを作ったのと同じことができる」
 4月に女性初の所長に就いた盛合氏が説明するのは、研究所が開発した「プライバシー保護深層学習技術」。暗号技術とAI技術を融合させ、個人情報などデータの中身を暗号化したままデータ解析できる。企業などが顧客の個人情報を外部提供する不安が解消され、ビッグデータの活用を後押しするものだ。

◆UFJなど5行で特殊詐欺検知の実証実験中

 この技術を使って2019年から、ニセ電話詐欺などの不正送金を銀行取引から検知するシステムの実証実験を科学技術振興機構(JST)の支援を受け、神戸大などと進めている。
 警察庁によると、不特定多数から現金などをだまし取る「特殊詐欺」の昨年の被害は約1万3500件、総額285億円。銀行はそれぞれ疑わしい取引を検知するシステムを持っているが、「1行ではどうしても不正のケースが限られ、データ数が少ない。新しい手口やリアルタイムでの対応にも弱いという課題がある」(盛合氏)。
 実証実験で各行は持っている顧客情報を開示することなく、暗号化した学習結果を中央サーバーに集めて更新。不正を検知する精度を高めた上で、各行が利用することができる。千葉銀行、三菱UFJ銀行など5行が実験に参加。本年度中に成果をまとめる。

◆セキュリティー技術、ますます重要に

 暗号を含めたセキュリティー技術の必要性はますます高まっている。今年9月にはデジタル庁が発足、社会全体のデジタル化がさらに進む一方、情報の安全性への脅威も拡大する。研究所は今年、サイバー攻撃への対応を企業向けにトレーニングする部署などを統合、新設し、総勢120人に拡大した。
 盛合氏は「IoT(モノのインターネット)化が進み、家電や車などあらゆるものがネットにつながり、私たちの生活に密着した情報がどんどんサイバー空間に上がっている。サイバーセキュリティーはますます重要になっている」と指摘。次世代を見据えた基盤研究だけでなく、実践的な業務に活動を拡大させるという。

 ビッグデータ 消費者や産業活動が生み出す膨大な情報の総称。情報通信技術の発展に伴い、インターネットやコンピューター上に蓄積され、分析が可能になった。さまざまな情報を横断的に処理することで異変の察知や需要予測が可能になる。NTTドコモなどが提供するスマートフォンの利用者の位置情報は、政府も外出自粛状況の確認で活用している。

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