筋肉に肉薄 「世界のミッツ」岡部みつるさん 伝説のボディービルダー撮り続けた男

2021年6月13日 07時02分

名古屋市内のジムでボディービルダー木沢大祐選手を撮影する岡部みつるさん(右)

 世界中のボディービルのレジェンドたちを撮影し、“世界のミッツ”と呼ばれる日本人カメラマンがいる。静岡県東伊豆町の筋肉写真家岡部みつるさん(58)だ。ボディービル史に名を残す名選手らに密着したビデオは、世界で数十万本を売り上げるメガヒットを記録。活動拠点を日本に移した今も「岡部さんに撮ってもらえたらトップビルダー」と言われ、自身もレジェンドになりつつある。
 250キロ超のバーベルを前に、世界最高峰の大会「ミスター・オリンピア」(米国)を8連覇したロニー・コールマンが叫ぶ。「ライトウエート、ベビー(軽いもんだぜ)」。超高重量のスクワットを4回。岡部さんの撮影した映像には、全盛期のロニーの規格外の肉体とハードトレーニングが収められている。
 岡部さんが米国で映像作家として活躍したのは1996年から2008年まで。その間にロニーをはじめ、世界のトップビルダーたちのビデオを50本以上制作。今では世界中のトレーナーが使う掛け声「ライトウエート!」は岡部さんのビデオがきっかけで広まった。
 岡部さんの作品は、ボディービル映像に革命をもたらした。96年当時、選手らの映像作品のほとんどは、撮影のためにトレーニングをして、選手の表情を追ったものばかり。「本物のトレーニングが見たい」と考えた岡部さんは選手に密着し、ドキュメンタリーのように撮影した。
 選手は胸や脚など部位ごとに鍛える日を変えているため、撮影は数日間に及ぶ。その間、岡部さんは選手宅に泊めてもらい、プライベートも撮影。体作りにおいて、トレーニングと並ぶ重要な要素でありながら、あまり知られていなかった選手の食事にも迫った。

岡部さんが撮影した世界的選手のロニー・コールマン。手の置く位置や各部位の力の入れ方で体の迫力が変わるという(岡部さん提供)

 トレーニングでは、選手の表情や伸縮する筋肉などズームしがちな場面で、あえて引いて撮った。体全体やバーベルなどを映すことで、フォームや負荷設定の参考になるからだ。岡部さんは「僕自身、ボディービルダーだったから、選手目線を大切にした」と話す。
 岡部さんは22歳で都内にあったジムに通い始め、2年後に大会に出場。その翌年には本場でのトレーニングに憧れて渡米し、ロサンゼルスであった大会で優勝もした。
 ある時、コーチだったプロ選手の写真を撮影。その写真とコーチが大会に出るまでのエピソードをまとめた文章を、ボディービル雑誌を発行する日本の出版社に送ると、記事になり連載が決まった。筋肉専門写真家の誕生だ。
 取材を重ねるうち評判は広まり、米国の出版社と年間契約を結ぶなど活躍の場は世界へ。96年から映像も手がけ、オリンピア出場選手らに迫った「オリンピアへの道」は主催団体から公式ビデオに認められ、12年間も続くシリーズとなった。

ボディービルダーとして現役だったころの岡部みつるさん(左)。握手しているのはコーチをしてもらっていた元プロ選手マイク・メンツァー氏(岡部さん提供)

 体調を崩して08年に帰国。今は国内の出版社や選手からの依頼で、全国を飛び回る。国内トップビルダーの木沢大祐選手が昨年開設したユーチューブチャンネルのカメラマンも務めている。チャンネル登録者数はすでに4万人を超えた。木沢選手は「米国、日本のボディービルのすべてを見てきた人。みつるさんだからこそ、僕の伝えたいことを表現できる」と話す。
 岡部さん自身も今月、ユーチューブチャンネル「ミッツTV」を開設。有名選手との秘話などを配信していく。「僕の経験が何かの役に立てばうれしい」。ロニーら伝説の王者たちと親交のある唯一の日本人、世界のミッツが何を語るのか。筋肉を愛する一人である記者も注目せずにはいられない。
 文・西川正志/写真・桜井泰
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