広島で被爆「おじいちゃん」が原爆の語り部に 孫のひと言で心の扉開く 児童文学作家・横田さん出版

2021年6月13日 07時20分

平和を願うおじいちゃんと孫娘の思いをつづった著書を持つ横田さん=麻生区で

 「話したくない。あんなにおそろしくてつらいことは忘れてしまいたい」。戦後60年近く原爆の怖さと悲惨さを口にすることができなかったおじいちゃん。その心の重い扉を孫娘のひと言がこじ開けてくれ、原爆の語り部となった−。川崎市麻生区の児童文学作家・横田明子さん(64)が同市在住の被爆者と孫娘をモデルにした子ども向けノンフィクション作品を出版した。「過去の失敗を知り、いま何をしなければいけないかを考えてほしい」という語り部の思いを描いた一冊に、作者の平和への願いが重なっている。 (安田栄治)

森政忠雄さん

 モデルは同市内の被爆者でつくる「川崎市折鶴の会」会長の森政忠雄さん(87)。作品のタイトルは「聞かせて、おじいちゃん−原爆の語り部・森政忠雄さんの決意」。横田さんは五年ほど前、町内会の回覧板で「孫のひと言で語り部に」という内容で講演会を開く森政さんの存在を知り、主人公として作品を手がけることを快諾してもらった。
 一九四五年八月六日、広島への原爆投下時、十一歳だった森政さんは爆心地から三・七キロ離れた国民学校で被爆した。「ピカピカッといきなり光ると空に『きのこ雲』が広がり、ものすごい爆風が襲ってきた」。頭とほほに傷を負ったが、大けがではなかった。
 その後、国民学校近くの病院に負傷者が次々と運ばれたが、助かる人はほとんどいなかった。「水をくれ」と言われてもあげることができず、亡くなっていく姿を何人も目の当たりに。戦後五十九年たっても心の傷を癒やすことはできなかったという。
 転機は二〇〇四年の夏。千葉県船橋市に住む当時小学五年生だった孫娘の友紀子さんに「夏休みの自由研究で広島の原爆のことを伝えたいから教えて」とせがまれ、重い口をやっと開いた。友紀子さんは、原爆の恐ろしさを伝えるとともに犠牲者への追悼の思い、世界で二度と戦争が起きないことを願う強い気持ちを書きつづった。森政さんは被爆した時と同じ年頃の孫娘の考えや思いやりに心を打たれ「語り部となって子どもたちに平和の尊さを伝えよう」と決意した。

「聞かせて、おじいちゃん」の本の巻頭を飾っているおじいちゃんと孫娘の写真(森政さん提供)

 横田さんは作品の中で森政さんを「おじいちゃん」と表現。子どもの視点でおじいちゃんの被爆体験や原爆の悲惨さを伝えている。友紀子さんの自由研究や十六年前の初講演を受講した広島市の小学五、六年生の感想文も掲載。作品を読んだ子どもたちが同年代の感性を共有して、平和の大切さを改めて見つめられるよう工夫した。
 また、森政さんが単なる語り部ではなく、過去の過ちが繰り返されないよう願って、原爆投下の歴史的背景を調べ、講演する度に内容を進化させている姿を、中学生になった友紀子さんの視点で伝えている。
 横田さんは「友紀子さんはおじいちゃんを尊敬し、成長して社会人となった今でも大切な存在として見つめています。おじいちゃんも心の扉を開いてくれた友紀子さんに感謝しています。二人の体験を子どもたちが共有することで、あすの平和へとつながってほしい」と話している。
 著書は四六判百六十ページ、税込み千六百五十円。国土社。書店やインターネット通販で購入できる。

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