[トマトの種] 埼玉県鶴ケ島市 尾越律子(71)

2021年6月13日 07時54分

◆わたしの絵本

イラスト・まここっと

◆300文字小説 川又千秋監修
[風が読む] 愛知県東郷町・無職・62歳 湯澤文夫

 二十年ほど前の、初夏の晴れたある日、開いた窓から流れてくる風が心地よい日だった。
 部屋で本を読んでいたら、幼い息子が「お父さん、読んで」と言って本を持ってきた。
 親の真似(まね)をして本を見たくなったのだろう。
 私は自分の本を置き、子どもが持ってきた本を読んであげた。
 しばらくしてリビングの方から「おやつだよ」と声がかかったので、読んでいた本を開いたまま、部屋を出ようと扉を開けた。
 その時、窓から入った風が、サーッと部屋を通り抜け、開いていた本のページを数枚めくった。
 それを見ていた子どもが、「風さんが本を読んでる」と言った。
 その一言で、心の中を爽やかな風が吹き抜けていったような気がした。
 昔の思い出の一幕である。

<評> 吹き抜ける一瞬のそよ風…水彩動画を思わせる軽やかな躍動感とすがすがしい透明感が印象的。いつまでも思い出にとどめておきたい息子さんの一言が素敵(すてき)です。

[たんぽぽ道] 岐阜県羽島市・主婦・26歳 山田玲奈

 散歩に行こうと、息子と家を出た。
 ふわりと春のそよ風にのって、たんぽぽの綿毛が息子の鼻をくすぐる。
 わぁ! と喜び、捕まえようとすると風が綿毛をさらう。
 待って待って! 綿毛を追って走り出す。
 あと少しのところで風が綿毛を逃がし、どんどん知らない道へ誘われた。
 捕まえた、と言う頃には肩で息をしていた。
 ふうっと顔を上げると、眼前に黄色い絨毯(じゅうたん)が広がる。たんぽぽ畑だ。
 息子は絨毯の上を転がる、転がる。
 服に綿毛をたくさんつけた帰り道、そよ風がふわりと息子をなでる。家に着く頃には服が綺麗(きれい)になっていた。
 一年後、また散歩に出ると、黄色い点が道案内のように続いている。
 はっとして二人でたんぽぽ道を辿(たど)ると、あの公園に着いていた。

<評> 色鮮やかで、物語性も豊か。印象派の絵画を思わせる晴れやかな情景が目に浮かびます。一冊の絵本にまとめ、次の世代まで伝えたい素敵(すてき)な自然絵巻ですね。

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