これ、中国⁉ ファーウェイが「天才少年」獲得のために創った舞台

2021年6月17日 05時50分
<ワールドけいざいウオッチ>

4月24日、広東省東莞市で、欧州の建築物が並び敷地内に列車が走るファーウェイの研究開発拠点

 中国通信機器大手のファーウェイが新事業開拓に向けて基礎研究にあたる人材獲得を急いでいる。海外人材も積極的に登用し、多国籍企業の色合いをいっそう強める。安全保障上の懸念が指摘され米国の制裁などの逆風を受ける同社だが、その危機感をテコに人材面での競争力強化につなげる構えだ。(広東省で、白山泉、写真も)

◆欧州?研究拠点?

4月24日、広東省東莞市のファーウェイの研究開発施設。休日には社員の家族が観光に訪れる

 欧州の古い町並みがどこまでも広がり、湖畔には印象派の画家モネを想起させるような睡蓮が花を咲かせる。その背景に架かる橋を、赤い列車がゆっくりと走り去っていった。欧州のテーマパークのようなこの地は、ファーウェイが広東省東莞市に110億元(約1860億円)を投じて建設した「松山湖開発拠点」だ。設計は日本の日建設計。皇居よりも一回り大きい約130ヘクタールのキャンパスで2万5000人の研究開発人員が働く。ファーウェイの社員と家族、関係者以外には立ち入りが許されないこの拠点を、取材した。

4月24日、広東省東莞市で、欧州の街並みを模したファーウェイの研究開発施設

 パリやドイツ・ハイデルベルク、ルクセンブルクなどの街並みが見事に再現されるが、建物内は半導体や自動運転などの研究開発関連のオフィスになっている。「週末には家族向けのイベントも開いている。ストレスの多い研究開発人員が仕事に専念できる環境を整えている」と同社の担当者。ロシアから有名な数学者を招聘するため、敷地内にロシア料理のレストランまで開業したという。

◆「天才」獲得へ執念

 米国の制裁を受けて以降、同社は研究開発やそのための人材確保により注力している。4月に行われたアナリストサミットで、徐直軍副会長兼輪番会長は「当社の戦略はすべて、米輸出制限対象のリストの載ったままでも生き残り、発展を続けるために作られている」と語った。

4月23日、広東省深圳市のファーウェイ本社で、取材に答える採用担当責任者の黄建彬氏(左)と顧問の黄衛偉中国人民大教授

 採用責任者の黄建彬氏は深圳市の本社で取材に応じ、「2019年から世界的に『天才少年計画』を打ち出し、大規模な採用活動を展開するようになった」と話した。「天才少年」とは会社が人工知能(AI)やクラウドなど、新たな事業分野を開拓するための最先端の課題を研究する若手人材のことだ。各国の有名大の国家重点実験室やノーベル賞受賞者の教え子、権威のある雑誌に論文を掲載した学生など、研究者の人脈などをたどりながら探し出している。
 初任給(年収)は、新卒の5倍以上の100万(約1700万円)~200万元。国内外で激化する多国籍企業との人材獲得競争を制するため、本社の研究開発施設に招待して研究に打ち込める環境をアピールするほか、大規模な契約のセレモニーを行うという。黄氏は「有能な戦士は戦場がなければ力を発揮できない。ファーウェイに来ればどんな研究をやってもいい。われわれはそのために必要な環境とプラットフォームを提供する」と話した。

◆求むノーベル賞教え子

 今年1月に入社した張靖義さん(25)はAI研究のスペシャリストだ。大学院ではトップの成績で「博士を2回修了できる研究をした」と話す。中国の企業が開催する学術コンテストなどで多く受賞し、国内外の特許を既に3つ持つ。ファーウェイについて「挑戦しがいのある企業風土がある。志の高い社員も多く刺激的だ」と話す。

4月24日、広東省東莞市で、ファーウェイの研究開発拠点の湖では、「予測できないこと」を示すブラックスワンが遊んでいた

 同社が2020年に新卒で採用したのは約1万2000人だが、「天才枠」の採用はこれまでで100人程度。ドイツ、ロシアなど外国籍の人材もいる。「日本にはノーベル賞受賞者が教える学生がいる。彼らは私たちが期待する『天才少年』だ」という。
 松山湖から車で40分ほどの場所にある深圳市の本社では、外国籍の社員も取材に応じてくれた。
 セルビア国籍のアンジェラさん(27)は半年前にファーウェイに入社した。高校の時に母国の中国語コンテストで優勝したのを機に留学し、北京で大学院を修了した。所属する政府事務部門は4分の1が外国籍。「いろんな国の同僚と働くのでそこから学べることが多い」という。
 化学・医薬関係の米雑誌の記者として香港に23年駐在したカナダ国籍のジャン・フランソワ・トランブレさん(56)は、約1年半前にファーウェイに転職。「米国の制裁によってR&D(研究開発)の伸びは増えている。失敗もあるだろうが、その中には成功の機会もあり、新たなビジネスが生まれてくるだろう」と話した。

4月23日、広東省深圳市で、ファーウェイ本社にある大正期の日本風に造ったカフェで取材を受けるカナダ国籍のトランブレさん

 2019年5月、米商務省は安全保障上の問題がある企業を列挙した「エンティティーリスト」にファーウェイを追加し、事実上の禁輸措置を実施した。翌年にはさらに制裁を強化し、米国の技術による高性能な半導体が調達できなくなった。これにより、ファーウェイのスマホではグーグル製のアプリを使うことができなくなった。同社の大きな収益減だったスマホの出荷台数は大きく減り、今後も大規模な投資をどれだけ続けられるかは見通せない状況だ。
 一方で、中国政府は半導体産業を支援する政策を発表した。米外交専門誌は「米中経済の分離対立は、最終的に中国の情報技術の力をより強化することになるだろう」とする論文を掲載した。

ファーウェイ 1987年創業。170カ国・地域でスマホや5Gなど情報通信技術(ICT)インフラ事業を展開。従業員19万7000人のうち研究人員は10万5000人。2020年は売上高の15.9%に当たる218億ドルを研究開発に投じた。

関連キーワード

PR情報