築地木村家 111年の歴史に幕 市場移転・コロナ禍 社長「時代の転換点」

2021年6月17日 07時11分

たっぷりあんこが詰まった人気のあんパンを見せる内田秀司社長

 中央区築地二の老舗パン店「築地木村家」が十七日、百十一年の歴史に幕を下ろす。雑味が少なく、中身がたっぷりで食べ応えのあるあんパンやカレーパンが築地市場で働く人や観光客の人気を集めてきたが、市場の豊洲への移転とコロナ禍で訪れる人が減り、閉店を決めた。(井上靖史)
 「素材の味を楽しめるあんパンが好き。二十年くらい通っている。閉店と聞いて、うそでしょという気持ち」。店を訪れた板橋区の自営業清水牧子さんは残念そうだった。
 一九一〇(明治四十三)年、あんパン発祥の店とされる銀座木村家で修業した内田永吉さんが、のれん分けで東京メトロ築地駅徒歩一分の現在地に創業した。北海道・十勝地方の上質な小豆を丁寧に洗うことで雑味を少なくし、必要以上に砂糖や調味料を使わないため、ぎっしり詰まったあんでも重くないと評判になった。ケシの実を使うことでも知られている。
 最盛期は十年ほど前。五百メートルほど離れた築地場外市場にあった店舗と本店で計一日四千個をさばいた。二十年ほど前まで永田町の衆院議員会館内にも店を構え、小泉純一郎元首相が好んで口にしたという。
 一九九九年に四代目として店を引き継いだ内田秀司社長(55)は、さらに七年前、甘いあんパンと対照的な一品として具たっぷりの「牛すじ玉ねぎカレーパン」も開発。一日千個も売れるヒット商品となり、三年ほど前からは地元にある卵焼きの老舗「丸武」と提携した「厚焼き玉子サンド」も加えた。
 だが、二〇一八年十月の築地市場移転は想像以上に地域のにぎわいに影響した。築地場外市場にあった支店は築地閉場から一年後に売り上げが半減し、本店も二割減に。「そこにコロナ禍の外出抑制で追い打ちが掛かった」と内田さんは言う。築後百年近い現在の木造三階建て店舗を改修する必要性も迫り、高齢の従業員らに退職金を払える体力があるうちにと閉店を決めたという。

人気のパンとの別れを惜しんで店を訪れる人も多い=いずれも築地で

 閉店の話が広まってから「惜しんでくれる声は連日、全国から届く。こんなに支えられていたんだなと」と内田社長は驚く。パン店は閉めるが、会社としては飲食店のメニュー開発など食品コンサルタント部門もあり、廃業はしない。
 今後、愛されたパンが復活する可能性はあるのか。「築地閉場と新型コロナという大きな時代の転換点で商売のあり方も変わりつつある。充電期間を置いて、どういう形なら商売として成り立つか。少し考えたい」と内田さんは思案する。
 最後の営業日となる十七日は、自慢のあんパン三千個とカレーパン千個を用意し、お客を迎える。

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