<人生会議 もしもの時に備えて>(4)蘇生中止 医師と意思共有を

2021年6月17日 07時24分
 「自宅で最期を迎えたい。延命は望まない」−。人生の終盤にある高齢者が周りに伝えていても、心肺停止の様子に動転した家族が一一九番。直後に本人の意向を思い返し、救急隊に蘇生中止を求める。そんなケースが相次いでいます。
 背景には自宅や介護施設でのみとり需要の高まりがあります。救急隊が出動した現場で蘇生処置を拒まれては、消防法上の救命の使命と本人の思いとのはざまで苦慮します。消防庁の二〇一八年の報告では、全国の消防本部の85%が同様の苦い経験をしていました。
 心肺蘇生の拒否を想定した法的枠組みがない中、消防庁の昨年の調査では、全国七百二十六消防本部の55%に当たる三百九十九本部が個別に対応方針を定めていました。その方向性は真っ二つに割れています。
 百九十七本部は蘇生して病院に運ぶ。百七十本部は医師の指示など条件付きで蘇生しない、または蘇生を中断できるとしています。
 前者は生命保護と救急隊の責務を最優先する考え方といえます。例えば大阪市消防局はこの立場です。
 対して、東京消防庁は一九年十二月から後者での運用を開始。医療倫理の四原則のうち本人の意思を重んじる「自律尊重」の原則に基づく考え方です。自宅や施設でのみとりを望む高齢者が手違いで救急搬送されるのを防ぎ、救急隊を真に必要な救命活動に振り向ける。それが狙いです。
 対応方針作りに携わった恵泉クリニックの太田祥一院長は「お年寄りは心肺蘇生しても、元通りの生活ができるようになる可能性は高くありません。病院に運ばれても、すぐにお亡くなりになる、あるいは延命治療に移行する可能性が高くなります」と医学的、倫理的な問題を指摘します。
 新たな仕組みが機能するには、自分の最期に向けての希望を家族や医療・ケア従事者と共有する「人生会議」(ACP=アドバンス・ケア・プランニング)を根付かせることが肝要とも、太田さんは話します。
 蘇生中止手続きは、家族らが本人の蘇生拒否の意思を救急隊に伝えると始まります。ただし、かかりつけ医と連絡が取れることが前提です。本人は(1)人生の最終段階(2)蘇生を望まない意思をACPで共有(3)想定された症状−を確認。医師が一定の時間内に到着できる場合にのみ、指示を受けて蘇生を中止します。
 東京消防庁管内では、運用開始から今年三月までの一年三カ月余りの間に、蘇生を拒んだ事案は百五十八件。そのうち本人の希望通りに蘇生を中止した事案は百四十三件でした。同庁救急管理課の鈴木翔平主任は「自宅でのみとりをACPのレール上で準備していたのに、一一九番したことで外れてしまった。それを再びACPのレール上に戻す活動です」と説明します。
 人生の終盤にある生命とどう向き合うか。日本蘇生協議会は、消防の責務か本人の意思かどちらを優先するか議論は尽くされていないと指摘します。 (大西隆)

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