コロナワクチン「打たない自由」はない? 接種は「努力義務」なのに…差別、偏見、同調圧力

2021年6月18日 18時00分

◆人権ホットラインに2日間で208件の相談 

 ワクチンを打たない選択をした人をめぐる状況は厳しい。日弁連は5月中旬、コロナワクチンに関する「人権・差別問題ホットライン」を実施したところ、2日間で208件の相談があった。多くは先に接種が始まった医療従事者や介護施設職員、看護学生、医学生、高齢者たちからだった。
 内容は、▽ワクチン接種をしないと実習を受けさせない。単位を与えられないといわれた(看護学生)▽ワクチン接種をせずにいたら医学部の寮の担当教授から呼び出され、自主退寮を勧められた(医学部生)▽ワクチンを『受ける』か『受けない』かにチェックする表が職場に張り出されている(医療関係者)▽病院から、ワクチンを打ってコロナにかかった場合は7割の給与を補償するが、受けずにかかった場合は自己責任といわれた(看護師)▽職場で自分だけが接種していない。上司に『コロナにかかったらあなたのせい』などと言われた(介護施設職員)―などだ。
 実際に相談を受けた日弁連人権擁護委員会委員長の川上詩朗弁護士は「予想以上に多かった。接種はだれのためにあるのか。まずは自分の身を守るためにあるはずだが、『他人に感染させないために打て』という同調圧力が働いている」とみる。
 世界的にもワクチン接種歴を身分証のように使う考え方が広がっている。欧州連合(EU)は加盟国間の移動について空港などで接種を終えたことを証明する「ワクチンパスポート」を提示する仕組みを導入しようとしている。国内でも出入国手続きをスムーズにするため、羽田空港でワクチン接種歴をスマホで確認する実証実験が始まった。ワクチンパスポートの導入も検討が進む。

◆米国では「接種しなければ解雇」も

8日、米テキサス州ヒューストンで、ワクチン未接種の職員約180人を停職処分にした病院前で抗議デモをする人たち=AP

 米国では、南部テキサス州を拠点とする病院グループ「ヒューストン・メソジスト」が、新型コロナウイルスワクチンの接種を完了していない職員178人を停職処分にしたと明らかにした。停職2週間以内に接種しなければ解雇するという。従業員ら100人余りが病院側の義務付けは不当だとして訴訟を提起したが、連邦判事は訴えを退けた。
 ワクチンを打たない人の解雇事件が今後、日本でも起きうるのか。労働事件に詳しい戸舘 圭之弁護士は「日米を単純には比べられないが、少なくとも日本の法律で新型コロナワクチン接種は強制でなく、『努力義務』。接種は本人の同意に基づくので、接種しない自由はある」とする。
 雇用側が接種を義務付けたり、接種しないことを理由に解雇や配置転換などをすれば違法とされ、損害賠償責任が生じる可能性があるという。「打つのも打たないのも、どちらを選んでも配慮や支援があることが大事。リスクと効果をてんびんにかけた上で一定数の人は接種しない選択をすることを前提に考えておく必要がある」

ワクチン接種を受ける小規模な医療機関の従事者=9日、名古屋市瑞穂区の市立大病院で

 ただ、現場の医師にとっては「打たない自由」は難しい問題だ。17日、ワクチン接種の合間に取材に応じた福島県立医大災害医療支援講座助教の原田文植医師は「医師の立場から言えば接種に協力してほしいと思う。アレルギーがあるなど接種しない方がいい人はいて、その場合は主治医が一筆書いて接種を見合わせるのがベターなやり方だろう」と語る。
 ワクチンの感染抑制効果は世界各国の実例から明らか。打たない選択の尊重の一方、非科学的・陰謀論的な反ワクチン論が広がることも避けねばならない。「政府は、因果関係が分からなくても接種後の副反応や死亡例の詳細などを隠さずにむしろきちんと公表していくべきだ。その方が結果的に接種に対する人々の信頼が高まっていく。隠せば陰謀論を助長しかねない」 

◆デスクメモ

 外出時のマスクも「義務」ではないが、今や誰もがしている。そこに同調圧力が働いたのは事実だ。ただ、身体に変化をもたらすワクチンは、外せば元通りのマスクとは違う。「効果は確かかもしれない。だが自分にとっては?」と考える自由が、同調圧力に侵されていいはずがない。(歩)
※2021年6月18日付東京新聞朝刊に掲載
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