政治が「開催」既成事実化 提言に「五輪是非」盛り込めず

2021年6月19日 06時00分
 新型コロナウイルス禍での東京五輪・パラリンピックについて、感染症、医療の専門家有志が、無観客での開催が「望ましい」と提言した。観客を入れた場合でも政府が目指す「1万人」を下回るよう求めた。ただ、菅義偉首相が開催を「国際公約」としたことで、提言に開催の是非は盛り込めなかった。大会の感染リスクを国民に示す機会が遅れ、実効性にも疑問符が付く結果となった。(沢田千秋、藤川大樹、原田遼)

◆4月、沈黙する政治

 18日の記者会見で尾身茂・新型コロナ対策分科会長は、当初は五輪開催の是非の検討を政府に求める案もあったことを明らかにした。
 春ごろは、開催できるか自体が不透明だった。3月に海外客の受け入れを断念し、4月に橋本聖子・組織委会長は「無観客の覚悟は持っている」と話した。
 政府が五輪の感染リスクの議論を避ける中、専門家は勉強会を続けていた。当時の専門家の会合の議事録によると、武藤香織・東京大医科学研究所教授は五輪の感染リスクの説明が不十分なまま、「安全・安心」を繰り返す政府に対し、「沈黙されている政治のリーダーの方々の態度は非常に矛盾したコミュニケーション」と指摘していた。

◆6月、G7首脳に開催宣言

 5月に入ると政府の巻き返しが始まった。首相は「安全・安心な大会」と繰り返し、開催の既成事実化を図った。
 「五輪を公式に議論しないのはおかしい」。提言に参加した鈴木基・国立感染症研究所感染症疫学センター長が記者団に憤りをあらわにしたのは5月下旬の専門家会合後だった。尾身氏も6月に入ると「パンデミック(世界的流行)で五輪をやるのは普通はない」などと公言し始めた。
 潮目が変わったのは先進7カ国首脳会議(G7サミット)。首相が五輪開催を各国首脳に宣言したことで、開催有無の議論の「意味が無くなった」(尾身氏)。

◆自粛の国民へ「矛盾したメッセージ」

 首相に先手を取られたことで「いかに感染リスクを減らせるかを提言の中心にした」と脇田隆字・国立感染症研究所長は明かした。
 政府は国の威信をかけ、有観客での開催を目指す。基準は、大規模イベントの上限「1万人」だ。
 提言は「五輪は通常のスポーツイベントと別格」とくぎを刺す。専門家は、五輪を観客入りと無観客で行った場合の影響を試算。開会式(7月23日)以降の都内の累積感染者数の差は、8月半ばに2000人にまで開く。五輪の観客は1都3県で1日あたり最大43万人とし「プロ野球は4・7万人、Jリーグは0・7万人。五輪は明らかに規模が大きい」と指摘した。
 「日本の新型コロナ対策は市民の自発的な協力に大きく依存している」と国民にも思いを寄せた。「感染対策が不十分な状態の観客、応援イベントなどの映像がテレビで流れると、協力している市民への『矛盾したメッセージ』になる」と警告。政府、組織委に「納得と共感が得られる説明をし、人々の労苦を無駄にしない大会運営」を求めた。
 ただ「無観客にすべきだ」とせず「望ましい」との表現にとどめた。観客の上限数も示さなかった。尾身氏は「しっかり感染対策をして規模を縮小し、選手に今までの努力を発揮してもらい感動したい。(観客数の)詳細を述べるのではなく、感染対策の基本的な考え方、思想を述べるのが私たちの役割」と弁明した。

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