あの人が好きって言うから… 有名人の愛読書50冊読んでみた ブルボン小林著

2021年6月20日 07時00分

◆話芸で懐へ 浮かぶ素顔
[評]稲田豊史(ライター・編集者)

 「ブルボン小林」とは、芥川賞作家・長嶋有が漫画やゲームを評論する際の筆名。有名人の愛読書(著者が今まで読んだことのない本に限定)を実際に読み、それが彼らのパーソナリティの何を表象しているのかを論じる。軽妙な文体のコラム集だ。
 フワちゃんの愛読書『マリアビートル』(伊坂幸太郎)なら、「テンポの良さだけではない『誠実さ』」をフワちゃんの語りに重ねる。米津玄師の『スノードーム』(アレックス・シアラー)なら、センチメンタルなエンターテインメント性が、米津作品の旋律に似合っていると読み解く。
 変化球気味のメタ視点にも、はっとさせられる。中居正広の『葉桜の季節に君を想うということ』(歌野晶午)の場合、叙述トリックが映像化不可能である点を指摘。テレビ愛の強い中居だからこそ、文章でしか成立しないギミックに感じ入ったと推察する。黒木華に至っては、同時に挙げた三冊の「栄養バランスの良さ」に、彼女らしさを見出す。
 こんな調子で五十人分。手数の多さに感心しきり。技のデパートのような本だが、文芸誌ではなく女性週刊誌の連載だけあって、言葉はきわめて平易。しかし芯は食っている。まるで、平易な言葉の一人語りで浮世の性(さが)をも炙(あぶ)り出す、落語のごとし。
 中でも見ものは、職業作家として、どうにも“認められない本”に当たってしまった際の、巧みな切り抜け芸だ。
 たとえば、大谷翔平は『チーズはどこへ消えた?』、滝川クリステルは『星の王子さま』が愛読書だが、著者はどちらの内容も気に入っていないことを隠さない。にもかかわらず、選書した彼らは決して貶(おとし)められない。むしろ、ウルトラC級のトリッキーな論法によって、持ち上げられる。その過程で、事の本質を確実に射抜ぬくことも忘れない。
 そこに皮肉が込められていないわけではない。しかしその込められ方は巧妙で、配慮を尽くされた品がある。皮肉の気配が察知できる一歩手前で寸止めする、その粋。噺家(はなしか)、しかも名人クラスの話芸を彷彿(ほうふつ)とさせる一冊だ。
(中央公論新社・1320円)
1972年生まれ。コラムニスト。『ぐっとくる題名』『ゲームホニャララ』など。

◆もう1冊 

ブルボン小林著『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』(ちくま文庫)。コンピューターゲームにまつわる想(おも)いをつづったエッセー集。

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