振り回され、労られ 『非正規介護職員 ヨボヨボ日記』 介護職員・真山剛(ごう)さん(61)

2021年6月20日 07時00分
 六年前の五十五歳当時、失業した私は日がな一日、公園のベンチを温めていた。デザイン事務所、居酒屋、建設コンサルタント経営などさまざまな商売に手を出した揚げ句、能天気な性格が災いした結果だった。その後、ハローワークの職員に勧められ、介護職員養成スクールに通った。そこで資格を取得し、非正規雇用だが老人ホームに採用され四年、現在もその施設で働いている。
 私の取得した資格「介護職員初任者研修」は介護業界では、いちばん下っ端のレベル。先輩諸氏から「未熟者め、おととい来やがれ」と叱られそうだが、ただ下っ端だからこそ、この業界のリアルや実態を描けると思った。
 被介護者の多くは、高齢で身体が不自由な方や認知症の方で、通常では想像できない予測不能な言動をする。その時のエピソードにユーモアを交えてつづったのが本書である。 
 仕事中、施設利用者の人生の光や影に触れる。戦死した夫の名前を体に刻んだ女性や、戦時中の防空壕(ごう)の様子を克明に語る女性。夜中、個室に謎の客が訪れるとシリアスに話す男性…など。
 ときに、利用者から泥棒呼ばわりされ、ウソやわがままに振り回され、延々と自慢話を聞かされる。一方で百歳の女性から体を労(いたわ)られたり、元占い師から日本の未来の予言を告げられたり。一週間で職場を去った職員の気の毒な話や、七十歳で介護職に即決採用された友人のことなど、現場で見聞きしたリアルな話を描いた。職員の目線で、よい介護施設、悪い介護施設を見分けるポイントなども正直に記した。
 介護職は、最も世の中に必要とされているにもかかわらず、恒常的に人手不足が続いている。「きつい、汚い、危険、給料が安い」と言われている4K職種。
 それでも私はこの仕事を続けている。その理由こそが本書の肝である。私のように紆余(うよ)曲折の人生をおくってきた方でも、いや、そうだからこそ、その経験が、この仕事なら生かせるかもしれない。
 もし定年後も働きたい、働かざるを得ないという方、介護職もその選択肢に入れてもらえたらと願う。もちろん、若者にも関心を持ってほしい。ただし、判断は、本書を読んでからでも遅くはないだろう。 =寄稿
 三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売・一四三〇円。

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