<食卓ものがたり>「男気」の誇り 甘酸絶妙 トマト(埼玉県桶川市)  

2021年6月19日 07時52分

「男気トマト」を収穫する手島孝明さん=埼玉県桶川市で

 子どものころ、学校から帰って丸かじりした味を思い出した。甘み、酸味、そして青臭さもある昔ながらのトマトらしさ。埼玉県桶川市の「手島農園」十八代目農園主、手島孝明さん(46)のトマトは、懐かしい味がする。
 農家の長男だが、大学卒業後は大手企業で営業やマーケティングに没頭した。三十六歳で「自分の看板で勝負をしたい」と退社。主にキュウリを栽培してきた父を引き継ぎ、江戸時代から続く野菜農家となった。自分は何で勝負するのかと考え、味の差別化が難しいといわれる野菜の中で、品種や作り手で味が大きく異なるトマトを選んだ。
 「世界でオンリーワンのトマトを作る。高齢化が進む日本の農業を元気にしたい」と意気込んだが、最初の年は売り物にならなかったという。研究と試行錯誤の結果、ハウスに植え付け、それ以降は水を与えない独自の「無灌水(かんすい)栽培」にたどり着いた。「甘みと酸味のバランスが抜群の味になる」と、手島さんは言う。
 品種は、甘みと酸味のバランスがよい「桃太郎ホープ」。九月に苗を仕入れ、ポットに植え替える。乾燥に強くするため、鉢上げ後の約一カ月は朝の水やりは一株におちょこ一杯程度。天気や湿度を見ながら乾湿を繰り返す育苗管理が、味を決めると考えている。
 十一月に苗をハウスの土に植える。その際に十分に水を染み込ませる以外は、基本的に水やりしない。元肥(もとごえ)は魚粉肥料と天然のカキ殻。「年を重ねるごとに味がよくなっていく」という。
 翌一月中旬には最初の収穫だ。ミニトマトや中玉、大玉を十五アールのハウスで栽培し、生産量は豊作の年で約十五トン。主に直売や通販で販売する。日々の仕事やトマトへの思いなどを発信する会員制交流サイト(SNS)を見たカフェの店主が買い付けるなど、ファンは広がっている。
 会社を辞めた時、仲間が贈ってくれた農作業着。手島さんの人柄を刺しゅうした「男気(おとこぎ)」の文字をブランド名にした。「自分の一生をささげる仕事にふさわしい」。やんちゃだった少年時代そのままの情熱を今、トマト作りに注いでいる。
 文・写真 五十住和樹

◆買う

 収穫期以外でも味わってもらおうと、今年から埼玉県秩父市の加工業者に製造を委託して無塩、無添加の「男気トマトジュース」=写真=の販売を始めた。500ミリリットル2本で1980円。このほか、万能ソースやドレッシング、ケチャップなどのトマト加工品も販売中。通販は「男気トマト」で検索。問い合わせは手島さん=電090(4186)3720。

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