若手落語家 コロナ禍を糧に

2021年6月20日 07時11分
 コロナ禍で東京都内の寄席も大ピンチ、ネットを介して救援資金を募るクラウドファンディング(CF)が展開されている。その寄席が「職場」の落語家たちも、もちろん苦境の日々。しかし、そこは何でも笑い飛ばしてしまうプロ。逆風が直撃してもたくましく生き抜く若手から教えられることも多い…かも。 (ライター・神野栄子)

◆林家けい木 足で稼いだウーバー噺

外食宅配サービス配達員の仕事をネタに取り入れている林家けい木=東京都千代田区で

 「僕、ウーバーイーツで生き延びていました!」。高座で元気に切り出したのは二つ目の林家けい木(30)。昨春、緊急事態宣言が発令されると、寄席は休業、高座の仕事はほぼゼロになってしまった。生計を立てるために外食宅配サービス「ウーバーイーツ」の配達員の仕事を始めた。
 自転車で一日百キロほど走った日もあった。届けた料理をひったくるようにして受け取る人、顔を隠して対応する人、高層マンションのエレベーター前で待ち構える一家…利用客のあれこれをデフォルメして話すと観客は大爆笑。
 昨秋、配達中に負傷したため辞めたが、そのエピソードを落語に生かすなど、転んでもただでは起きない。「“健脚商売”と言っています」。師匠の林家木久扇の口癖は「家にいたら『在庫』だよ」。外に出ていろいろ体験せよという教えを守り、積極的に行動する。いま電気ひげそりなどCM二本に出演している。オーディションのエピソードも「隠さず、全部ネタにしますよ」。

◆桂竹千代 院卒博識 古代史で一席

「壬申の乱」をテーマに講義する桂竹千代=東京都墨田区で

 無観客で配信の高座も増えるなど、慣れない環境に四苦八苦しても「噺家(はなしか)稼業を辞めた人はいない。こんなことで辞めてたまるかという意地がある」と落語家たちは口をそろえる。知恵と工夫を競う昨今、高度な専門知識を生かし、独創的な高座を展開している二つ目を見つけた。
 桂竹千代(34)は明治大大学院で古代日本文学を専攻。神々が支配していたとされる神話の時代から飛鳥、奈良期あたりまでを得意としていて、「古代史落語家」を名乗る。四年ほど前から「かんたん日本古代史の落語会」と題した異色の会を続けている。
 今月上旬、東京・両国の江戸東京博物館。神職姿の竹千代が六七二年の「壬申の乱」をテーマに一席。天智(てんじ)天皇、大友皇子(おおとものおうじ)、大海人(おおあまの)皇子ら登場人物を解説し、その皇位継承を巡る思惑、戦いを笑いを交えて披露すると、観客は楽しみながらメモを取っていた。竹千代は「何か変わったことをと始めたのがこの落語会。笑いながら学ぶ、がいいみたい」と手応えを明かす。
 一昨年「落語DE古事記」(幻冬舎)を出版。昨年は年間百五十本くらい仕事がなくなったが、動画で「古事記」の一席を配信したところ好評。視聴者が高座に足を運んでくれたことがうれしかったという。昨春からは神奈川大でオンラインの生涯学習講座「落語の楽しみ方」などを受け持ち、芸域は広がっている。

◆橘家文太 故郷を走るトラック寄席

「落語car」の高座で一席披露する橘家文太=5月、北九州市で

 落語は東京にいなくてもできる−。そんな信念を掲げ、郷里で修業を続けている若手もいる。昨年二つ目に昇進した橘家文太(34)はコロナ禍で仕事も激減したため、師匠の橘家文蔵から「帰省して活動したらどうだ」と勧められ、落語協会に所属しながら北九州市にUターン。今春、一・五トントラックの荷台を改造し、高座と楽屋を設けた「落語car」を用意した。
 「迷うことなく戻りましたが、地元には寄席がなく同年代の落語家と切磋琢磨(せっさたくま)できない。稽古もなかなか付けてもらえないという悩みもあります」というが、文太の“走る寄席”は地元住民の応援も日に日に増え、じわじわ浸透。落語を聴いたことがない人が多く、落語carでどこでも駆けつけ、落語を広めている。「夢は北九州市に寄席をつくること」と大きい。

◆寄席支援へ8000万円超す善意

5月、寄席支援のためのクラウドファンディングへの協力を呼びかける落語協会の柳亭市馬会長(左)と落語芸術協会の春風亭昇太会長=東京都新宿区で

 落語協会と落語芸術協会が手を携えて東京都内5カ所の寄席を支援するため、5月18日に始めたCFは、当初の目標額5000万円を超え、18日夕までに、延べ約5830人から約8200万円が寄せられた。新たに設定した目標額の8000万円にも到達した。
 支援者からは「つらい時に寄席に救われた」「寄席は大切な文化」など、寄席への思いをつづるメッセージも届いている。事務局担当者は「こういう形で寄席への励ましの言葉をいただいたのは初めて。身の引き締まる思い」と感激しきり。
 CFは今月末まで受け付け、鈴本演芸場、新宿末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場、お江戸上野広小路亭に分配する。詳細は「寄席支援プロジェクト」で検索。

◆どんどん冒険、挑戦を

 コロナ禍の落語界について、ロック誌編集長で落語評論家の広瀬和生さんは、「昨年は打ちひしがれたが、今年は先に進もうという人が多くなった。失われた二〇二〇年を取り戻そうという動きが目立つ」と話す。その上で、若手には「自分が真打ちになった時に、(コロナ禍を)糧にするような過ごし方をしてほしい」とアドバイスする。
 そして「若さゆえの失敗が許される時期でもあり、どんどん冒険や挑戦をし、同時にしっかり勉強を」と直言。実力派真打ちの下積み時代を引き合いに「古典の名手、桃月庵白酒師匠は、二つ目の時に覚えたネタを現在蔵出しして磨いている。今だからできることに挑んでほしい」と熱いエールを送った。

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