被告人質問に臨む池袋暴走事故の遺族、松永さん 怒りを抑え続けた理由と不本意な決意

2021年6月21日 06時00分

東京・池袋の乗用車暴走事故で亡くなった妻の真菜さんと長女莉子ちゃんの写真を前に記者会見する松永拓也さん(右)。左は涙を拭く真菜さんの父上原義教さん=4月27日、東京・霞が関の司法記者クラブで

 東京・池袋で2019年、母子が暴走した車にはねられ死亡した事故で、遺族の松永拓也さん(34)は21日午後、東京地裁での刑事裁判で被害者参加制度を使い、被告人に直接質問する。松永さんは初めて「心を鬼にする」と決意している。4月の前回公判で無罪主張の被告人の言葉に憤りを抑えられなかったからだが、犠牲になった妻子の心情を思うと本当はしたくない決意だった。(福岡範行)
【2~3ページ目に一問一答】

◆被告人の証言に「絶望」

 前回公判では、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長飯塚幸三被告(90)が検察官や弁護士の質問に答えた。飯塚被告は事故の状況を「右足でブレーキを踏んだが、ますます加速した」と説明。足元を一瞬見たとし「アクセルペダルが床に張り付いて見えた」と述べた。
 これに対し、松永さんはドライブレコーダーなど物証との矛盾を感じ「罪に、命に向き合ってほしいという遺族の思いすら叶っていない」と思った。飯塚被告の姿勢は今後も変わらないのではないか、とも感じ「絶望してしまった」。直後の記者会見では「アクセルペダルの目視は(時速)80キロで走っていたら1秒もない」と説明を疑問視。飯塚被告の追悼の言葉も「軽い言葉はいらない」と拒絶した。
 帰宅すると、妻真菜さん=事故当時(31)=と長女莉子ちゃん=当時(3つ)=の仏壇に手を合わせ「裁判の時だけは心を鬼にする」と報告した。怒りをあらわにしても2人が喜ぶとは思わないと考え、裁判中でも冷静であろうとしてきた。その姿勢を変えた瞬間だった。

◆怒りにとらわれたくはなかった

 2人ならどう考えるかは事故直後から、松永さんの生き方の指針だった。生前は2人に「愛している」と伝え続け、怒る姿は見せなかった。だから事故後も、飯塚被告への怒りや憎しみにとらわれたくなかった。

妻・真菜さんの指輪のネックレスを持つ松永拓也さん=東京都豊島区で

 昨年10月の初公判では、胸に忍ばせた真菜さんの指輪に手を当てて「大丈夫だよ。心配しないでね」と念じ、心を落ち着かせた。その後も、飯塚被告の証言に落胆しないよう「彼には何も期待しない」と自分に言い聞かせ続けた。
 でも、前回は感情があふれた。「怒りが湧くのは人として当然。そんな自分を許そうと思った。それが僕にとって『鬼になる』ということなのかな」

◆妻と子へ「心配しないでね」

 質問で恨みをぶつけるつもりはない。「人をジャッジできる(裁ける)のは裁判官しかいない。僕はルールの上で戦いきろうと」。2人に見せたことのない感情が出るかもしれないが、裁判を事故防止につなげたいという思いは揺るがないし、裁判以外は「2人が愛してくれた」穏やかな自分に戻るつもりだ。
 公判は今後も真菜さんの指輪とともに臨む。2人にかける言葉も同じ。「大丈夫だよ。心配しないでね」

池袋乗用車暴走事故 起訴状などによると、飯塚幸三被告は2019年4月19日正午すぎ、東京都豊島区東池袋4の都道で、ブレーキと間違えてアクセルを踏み続けて時速約96キロまで加速し、赤信号を無視して交差点に進入。横断歩道を自転車で渡っていた近くの松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=当時(3つ)=をはねて死亡させたほか、通行人ら男女9人に重軽傷を負わせたとされる。

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