カトリック界小児性愛の闇に、教皇がようやく処罰規定 被害者「高位聖職者に甘い体質が問題」

2021年6月21日 12時00分
 ローマ教皇フランシスコ(84)が今月、キリスト教カトリックの規範となる教会法を改正し、聖職者らによる未成年者への性的虐待を処罰の対象と明記した。長年にわたって各国の教会にはびこってきた、おぞましい真実と向き合う姿勢を示した形だ。しかし、罪を犯し、その罪を隠蔽し続けてきた一部の教会権力の闇は根深い。変革は可能なのか。被害者らは冷静に動向を注視している。(パリ・谷悠己)

昨年12月、バチカンのサンピエトロ大聖堂で、クリスマスイブのミサを執り行うローマ教皇フランシスコ=AP

◆14年越しの法改正

 「教会における慈悲と制裁のバランスの欠如は、過去において多くの被害をもたらしてきた」
 教皇は改正法を発表した今月1日の声明でこう述べ、未成年者を虐待した聖職者らが見逃され続けてきた実態を振り返った。
 教皇ヨハネ・パウロ2世(在位1978~2005年)が1983年に制定した現行法では、聖職者が犯してはならない性犯罪として、モーセの十戒の6番目「姦淫してはならない」が引用されているのみで、被害対象には言及がなかった。
 12月に施行される改正法は、姦淫の罪を犯してはならない対象に「未成年者」を明記し、加害者は職務が剝奪されたり、「相応の罰」を受けたりすると規定した。
 人権団体などからは、夫婦間の不貞行為を指すことが多い姦淫という言葉が未成年虐待の実態とそぐわず、加害者の上司が制裁の是非を判断する仕組みのため「改正法にも抑止力はない」との批判が上がる。
 だが、フランスの高等教育機関「社会科学高等研究院」のセリーヌ・ベロー研究部長(46)は「問題を直視しなかったり、棚上げしてきたりした歴代教皇らと違い、フランシスコは聖職者に意識改革を求めた」と評価する。
 法改正は先代のベネディクト16世(在位2005~13年)が2007年に着手したが、日の目を見ないまま退位。14年越しでようやく実現した形だ。

◆隠され続けた実態

 婚姻が認められず、他の宗教に比べ同性愛者の割合が多いとされるカトリックの聖職者。ミサの手伝いをする侍者やコーラス隊、ボーイスカウトなどの立場で教会と関わる少年らが性被害の対象となるケースは古くから存在していたが、実態は隠され続けていた。
 ベロー氏は「カトリックでは聖職者が神格化され、非常に強い権力を得る。幼く立場が弱い被害者の声をかき消す体制が構築されていた」と指摘する。
 その闇に切り込んだのは2002年の米地方紙ボストン・グローブのスクープだった。米ピュリツァー賞を受賞し映画化もされた調査報道を機に、各国で被害の告発や調査が相次いだ。
 アイルランドでは同紙の報道前から始まっていた調査の結果が10年越しで公表され、過去60年の間に聖職者ら800人による未成年者2000人への性的虐待が判明した。日本でも1950年代以降に男女16人の性被害が確認された。スイスの人権非政府組織(NGO)ヒロンデル財団によると、未成年者の性的虐待は世界の200都市以上の教会で起きている。
 2015年に設立され、仏南部リヨンの元司祭による性虐待を記者会見で告発した被害者団体のフランソワ・デュボーさん(42)は「教会に直接訴えてもつぶされる。対抗できる唯一の方法がメディアの力を借りることだった」と話す。
 報道の高まりを受け、司法当局に起訴された加害者の元司祭は実刑判決を受けた。デュボーさんらは報道の10年前から被害実態を把握しながら通報しなかったリヨン大司教の責任も追及し、教皇に10度手紙を出して3度受領されたが、返事は1度もなかった。
 初めて規制強化を実現した教皇だが、デュボーさんには物足りなく映るという。「結局、バチカン(教皇庁)は高位の聖職者には甘い。この組織体質が直らない限り、被害はなくならないのではないか」

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