<サブカルWorld>(6)2.5次元入門 ゲームの世界が目の前に

2021年6月22日 07時56分

舞台「刀剣乱舞」の終演後の様子。興奮冷めやらぬ中、感想を話し合ったり記念撮影したりするファンであふれた=東京都江東区で

 舞台やミュージカルの世界で、実際の役者が、漫画やアニメ、ゲームのキャラクターを作中とそっくりに演じる「二・五次元」の人気が高まっている。だが、それでは役者の個性が生きないような…。なぜ人気なのか、今一つピンとこない。そこで今回は、二・五次元初体験の記者が、人気演目の一つ、ブラウザゲーム「刀剣乱舞−ONLINE−」の二・五次元舞台を、この分野の研究の第一人者で横浜国立大教授(ポピュラー文化研究)の須川亜紀子さんとともに体感。見どころや楽しみ方を解説してもらった。

舞台「刀剣乱舞」は人気を博しており、過去の上演作品はDVDで見ることもできる(写真は、「舞台『刀剣乱舞』虚伝 燃ゆる本能寺 〜再演〜」のDVD)

 クラシック音楽担当として、オペラやバレエはよく鑑賞するが、二・五次元ものは初めて。何を見ようかと、調べてみると、意外と公演が少ない! 須川さんによると、以前は毎日のように多くの劇場でさまざまな作品が上演されていたが、コロナ禍でかなり減ってしまったという。収容率も50%と抑えられている中、何とか、今月中旬の刀剣乱舞の舞台(通称・刀ステ)「无伝(むでん) 夕紅(ゆうくれ)の士(さむらい)−大坂夏の陣−」を予約できた。
 第三回でも取り上げた刀剣乱舞。舞台をより楽しもうと、実際にパソコンでゲームも始めてみた。結構ハマってしまい、家族に白い目で見られながらも「仕事で必要だから…」と、刀剣男士を集めたり育てたりの日々。だが、これらのキャラが現実世界で動いて話す姿は想像しにくい。ついていけるだろうか。
 公演当日は開演の一時間ほど前に、豊洲市場近くにある、会場のIHIステージアラウンド東京(東京都江東区)に到着。既に開場待ちのほか、グッズ売り場に長蛇の列が。観客層は女性がほとんどで、特に十〜二十代らしい若者が目につく。美青年の刀剣男士を演じるのは若手イケメン俳優だ。須川さんは「キャストによって、客層も変わる」とした上で、二・五次元の元ネタに触れ「少年漫画は男女ともにファンがつきやすい一方、少女漫画は男性ファンが少なめのため、全体として女性ファンが多くなる傾向がある」と指摘する。
 女性ファンたちはおしゃれに着飾ったり、和服姿や刀剣男士のコスプレっぽい格好もちらほら。須川さんは「ファンにとっては、画面上で決まった反応しか示してくれない『推し』のリアルな姿(?)に会いに来る『ハレの日』だから」と力説。髪飾りの色に、推しのイメージカラーを取り入れるなど、「さりげないアピールも欠かさない」と教えてくれ、よく見るとその通りだ。推しのぬいぐるみを前方にかざしてスマホで撮影する「儀式」も当たり前のように行われていた。
 会場は、舞台と大型スクリーンが客席を三六〇度囲み、客席全体が舞台の進行に合わせて回転する新感覚の劇場。「私語禁止」の場内で静かに待つ皆の目は期待に輝いていた。
 いよいよ開演−。あのゲーム画面上の二次元の世界が三次元の舞台でどう展開されるのか。すると、記者が最近、ゲームで入手したばかりの大千鳥十文字槍(やり)が登場。赤を基調とした迷彩のツナギに白髪といったいでたちはゲームで見知ったもので、思わず心が躍る。へし切(きり)長谷部や薬研(やげん)藤四郎ら他の刀剣男士たちもゲームと同じ衣装。「命を惜しめば刃(やいば)が曇る」「敵が何であれ、斬るだけだ!」。決めぜりふもバッチリだ。リアルの舞台を見ているはずが、ゲームの続きをやっているかのような不思議な感覚にとらわれてくる。

プレイ中の「刀剣乱舞−ONLINE−」。操作は選択肢を指でタッチするだけだ

 もちろん、異なる点も多い。ゲームでは短時間で終わる戦闘は、刀剣を振り回す派手なアクションシーンとなり、客席の回転やスクリーンの映像なども効果的で舞台そのものの完成度も高い。とはいえ、切りつけられて負傷すると、衣服がはだける演出はゲームと同様で、その際は観客が一斉にオペラグラスを手にしていた。
 今回の主役でゲームでは入手が難しいレア刀剣の三日月宗近(むねちか)を演じたのは「二・五次元の帝王」と称される鈴木拡樹(ひろき)さんで、さすがの貫禄。二・五次元の浸透とともに、元ネタのキャラが好きでハマるだけでなく、俳優のファンとなって追い掛けるパターンもあるといい、「どちらの場合も、このキャラを誰が演じるか、この俳優がどのキャラを演じるかといったキャストの違いを楽しんでいる」と須川さん。
 ストーリーは舞台オリジナル。豊臣秀吉の正室で三日月宗近の所有者だった高台院を元宝塚の一路真輝さんが演じ、敵役の真田十勇士のキャラも濃い。豊臣秀頼や徳川秀忠ら歴史上の人物らの心情も交えた重みのある内容だ。終演後、周りには感極まって涙ぐむ女性の姿も。記者も大いに楽しめた。「二・五次元もなかなかいいな」
 元ネタをあまり知らなくても舞台やミュージカルは沼への入り口になるだろう。実は記者はまだ三日月宗近を入手できていない。鈴木さん演じる三日月を見て「何としてもゲットしたい!」との思いが強まり、ゲームをやめられなくなってしまった。 (清水祐樹)
<2.5次元> 漫画やアニメ、ゲームなど2次元の世界を、3次元の人間が舞台やミュージカルで再現したもの。ファンの間で使われていた用語が、一般化した。2014年に設立された日本2.5次元ミュージカル協会によると、18年の年間上演数は197作品、総動員数は278万人。若者を中心に人気が広がっている。
*「サブカル」とは、漫画、アニメ、ゲームに代表される「サブカルチャー」の略語。この欄は、沼のように奥深いサブカルの魅力をお届けします。毎月第4火曜日掲載。

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