郷土菓子に恋して♡♡ 50カ国超を旅した職人・林さん 明治通りにカフェ

2021年6月23日 07時13分

自転車でユーラシア大陸を横断し各地の郷土菓子と出合った「ビノワカフェ」の林周作さん=いずれも渋谷区で

 渋谷と原宿を結ぶ明治通りの真ん中に、世界各地の焼き菓子などが楽しめるカフェがある。「郷土菓子研究社」の代表で菓子職人の林周作さん(32)が、世界50カ国以上を旅して出合ったお菓子だ。約10年前から自転車などでフィールドワークを続ける林さんは言う。「きれいなケーキより、何とも言えない素朴でずっしりとした郷土菓子にひかれます」

世界の郷土菓子を楽しめるビノワカフェ

 カフェの名前は「ビノワカフェ」。若草色が美しいスウェーデンのケーキやキャンデーのように包装されたインドのヒヨコ豆の菓子など世界の菓子が常に十数種並ぶ。林さんは「今年は期間限定メニューを強化し、一年で百種の郷土菓子を出します」とほほ笑む。

【スウェーデン「プリンセストルタ」】スポンジ生地、カスタードクリームと生クリームを組み合わせたスウェーデンの定番ケーキ。ラズベリーがアクセントに。もっちり食感のマジパンで覆うのが北欧スタイルだそうだ

 これまで出合った菓子は五百種以上。保存が効くよう酒やスパイスをふんだんに使うのが世界の郷土菓子の傾向で、暑い地域はゼリーやアイスなど冷たくのど越しがよいものが多いという。
 京都府宇治市出身。料理専門学校を卒業後、郷土菓子を学ぼうとフランスに渡り、老舗の菓子店で一年間修業に励んだ。ビザが切れる前にユーラシア大陸の横断を決意し、二十三歳の時に自転車を購入。二〇一二年六月、所持金千七百ユーロ(当時約二十三万円)でフランスから上海を目指し旅立った。

【エストニア「ルミコック」】「ルミ」はラム酒。スポンジなどの余り生地に、チョコやレーズンなどを練り合わせラム酒をたっぷり効かせる。てっぺんのチェリーがキュート

 一日に使う限度額を三ユーロ(約四百円)と決め、宿泊代を浮かせるため、「突撃民泊」を敢行。ホストマザーから菓子のレシピを学ぶこともあった。宿泊のお礼には、持参した和菓子セットで団子をふるまった。
 旅を始めて三カ月後。ボスニア・ヘルツェゴビナで民泊先の家族にカメラやノートパソコンを盗まれるトラブルが発生。以降は安宿に泊まるようになったが、出費に歯止めがきかなくなり、ジョージア滞在中に預金を下ろせなくなった。それでも自作のフリーペーパーやサイトなどでスポンサーを募り、旅を続けた。

【フランス「ケークエコセ」】アルザス地方などで親しまれている二層のケーキ。内側はアーモンドのバターケーキ、外側はメレンゲとアーモンドの粉末、ココアパウダーを合わせた優しい味

 人の優しさにも触れた。キルギスでは、出会ったばかりの男性が数日泊めてくれた。1Kの小さな部屋に妻と一歳にも満たない子がいて、一緒に川の字で寝たという。この男性の妻の両親に招かれ、田舎町にも滞在。クリーム状の乳製品「カイマック」を知る。揚げパンにつけて食べるとやみつきになった。

【スイス「バーズラーレッカリー」】シナモン、ナツメグなどのスパイスとナッツ類をたっぷり使ったねっちり食感の焼き菓子。辛口のお酒とも相性がよさそう!

 ケシの実がぎっしり詰まったドイツのケーキ。やたらと固い中国の豆花(トウファ)(豆腐プリン)−。現地の人にお薦めの郷土菓子を聞き込み、一五年十二月、雨の中、上海に到着。一時帰国をのぞくと、大陸横断に二年半かかった。

【アゼルバイジャン「シェチェルブラ」】パイ生地をかじると、粗糖のザクザク感とクルミのコク、カルダモンのエキゾチックな香りが口いっぱいに広がる。ピンセットで描く表面の模様が特徴

 帰国して半年後、明治通りに店を構えた。帰国直後にイベントを開き、菓子をふるまうと好評だったからだ。現在はスタッフと四人で、現地の味をできるだけ再現しようと奮闘している。一方で郷土菓子研究の旅も継続中。メキシコやオーストラリアも訪ねた。昨年はコロナ禍で渡航できなかったが「ブラジルやロシアにも行かないと」。旅はまだまだ終わりそうにない。

キルギスのジャイロー(放牧地)にあるポズユ(ゲル)で過ごす林さん(右から3番目)=郷土菓子研究社提供

 文・山下葉月/写真・松崎浩一
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