ウガンダ選手団の新型コロナ感染判明が示した“バブル”の欠陥 東京五輪は「安心安全な大会」にできるのか

2021年6月25日 15時18分
 ウガンダの東京五輪選手団のうち2人が、新型コロナウイルスに感染していたことが判明した問題。うち1人は空港の検疫をすり抜け、合宿先の大阪府泉佐野市までバスで移動した。選手ら大会関係者を外部と遮断する「バブル(泡)」により、安心安全な大会にできると大見得みえを切ってきた政府だが、その泡はいきなりはじけた格好だ。感染拡大を防ぐには、やはり大会中止しかないのではないか。 (中沢佳子、中山岳)

◆空港で陰性の8人は貸し切りバスで泉佐野市へ

 「空港で陽性者が出た場合に受け入れ側がどうするかや国の指示など、詳しいことが分からない。そもそも担当者が、濃厚接触者の疑いで自宅待機なので…」。事前合宿地としてウガンダ選手団を受け入れた、大阪府泉佐野市自治振興課の職員が、困惑する。
 選手団9人が成田空港に到着したのは、19日。検疫の抗原検査で判別がつかなかった1人にPCR検査をし、陽性と分かった。しかし、抗原検査で陰性だった8人は、空港で濃厚接触者かどうかの判定をせずに、貸し切りバスで同市に向かうことになった。
 結局、地元の保健所は22日に、選手団全員と現地から同行した市職員1人を濃厚接触者と判定した。しかも翌日、新たに1人の陽性者が判明。空港からバスに同乗するなどした市職員4人が、2人目の陽性者の濃厚接触者に当たる恐れがあるとして、念のため自宅待機になった。
 自治体への影響は小さくはない。しかし、丸川珠代五輪担当相は22日の閣議後の会見で「トイレ付きのバスを使い、他の人と接触をしない形で移動した」と、問題ないとの姿勢だ。

◆大阪府知事は「なぜ空港から移動したのか」

 一方、大阪府の吉村洋文知事は23日の定例会見で「普通の感覚なら(選手団は)濃厚接触者。成田で陽性者が出た以上、空港に留め置くのが筋ではないか。なぜ移動したのか」と納得できない様子。感染拡大を防ぐため、選手の行動範囲を選手村や競技会場に限り、移動時も外部との接触を断つ「バブル方式」に触れ、「受け入れ自治体が最終責任を負い、『泡の中』で移動ということになっているが、本当にそれでいいのか」と疑問を呈した。

森ビルの職場接種会場の視察後、記者会見で「安心安全を最優先する大会に」などと語った菅首相(左)=21日、東京都港区で

 厚生労働省検疫所業務管理室によると、空港検疫で陽性者が出た場合、機内で同列と前後2列の席の乗客情報を航空会社に確認。該当乗客の自宅や宿泊先がある自治体に知らせ、地元の保健所が濃厚接触者かどうかを判定するという。
 ただ、選手団は機内の席が近く、会話をしていた可能性も高い。検疫段階で濃厚接触者だと考えるのが自然だ。なぜ移動先に判定を委ねるのか。同室の田島章太郎室長補佐は「受け入れ自治体と内閣官房の間で、濃厚接触者判定は受け入れ先の保健所が行うという取り決めがある。今回もそれに沿った」と説明する。
 内閣官房東京五輪・パラリンピック推進本部事務局の大森康宏参事官は「通常、陰性だと入国を許可し、自宅やホテルなどで2週間待機してもらっている。五輪選手も同じ概念で対応している。行動範囲は宿泊先に加え、練習場所も認めているので一般の人より広いが、『少し広いながら閉じた世界』で待機する状態だ」と説明する。

◆菅首相は会見で「選手は毎日検査」 でもそれはPCRじゃない

 ウガンダの件は「バブル方式」の欠陥を示した。これでは政府がうたう「安心安全の大会」に程遠い。だが大森氏は「今回より人数の多い選手団もあるだろう。全員を濃厚接触者とみなし、空港に留め置けるかを考えると、スペースや検査態勢の問題が出てくる」と現実的に難しいとみる。
 五輪選手に限らず、海外から日本に入国した人は空港検疫で「抗原定量検査」を受ける。唾液を採って新型コロナウイルス量を調べる方法で、簡易キットを使う抗原検査より感度が高い一方、PCR検査よりは低いとされる。短時間で結果が分かり、昨夏から無症状者への抗原定量検査が認められると各空港が導入した。ウガンダ選手団で最初に陽性が確認された選手は、この検査で結果の判別が付かず、PCR検査で判明した。

5月7日、記者会見する菅義偉首相=官邸で

 五輪のコロナ対策を巡り、菅義偉首相は5月7日の記者会見で「選手は毎日検査を行うなどの厳格な感染対策を検討している。こうした対策を徹底し、国民の命や健康を守り安全・安心の大会を実現する」と説明していた。聞いた人の多くは、選手が毎日PCR検査を受けると思っただろう。
 だが、大会組織委員会などが今月15日にまとめた選手向けの「プレーブック(規則集)」第3版によると、毎日実施するのは抗原定量検査。結果が陽性か不明確なら、同じ唾液の検体でPCR検査をする。それで陽性の場合、鼻の奥の粘膜を採るPCR検査を実施する、という流れだ。理由を組織委に尋ねると「国内の検査体制に大きな負担をかけずに実施できるよう、事業者の状況も確認しながら検討している」と回答した。

◆「厳しく対策するなら空港検疫から全員にPCRを」

 これに対し、大阪府富田林医師会で感染症対策担当理事を務める小児科医の藤岡雅司氏は「五輪関係者から陽性者を1人でも出さないよう厳しく対策するなら、空港検疫から全員にPCR検査を実施したほうがいい」と疑問視する。国際医療福祉大の高橋和郎かずお教授(感染症学)も「今はPCR検査でも短時間で判明する機器がある。抗原検査より費用はかかるものの、本気で対策するなら取り入れるべきではないか」と説く。
 ただ、PCR検査でも3割は陽性を見落とす可能性があるとされる。藤岡さんは「ウガンダ選手団のように、空港検疫をすり抜けて合宿地へ移動した後で陽性が判明するケースは今後も起こり得る。入国後10~14日間は空港周辺のホテルなどで経過観察が必要。それなしにバブル方式を取っても意味がない」と警鐘を鳴らす。
 実際、ビジネス目的などの来日で空港検疫を通過後、陽性が判明するケースは少なくない。5月20日~今月24日の千葉県の発表資料によると、成田空港から入国した外国人らのうち、県内の医療機関の検査で陽性が分かったのは40人に上る。

◆このままではバブルの中でクラスター発生も

 高橋さんは「選手は合宿地や選手村を移動し、バス運転手やホテル関係者と接触する機会も避けられない。バブル方式にも漏れはあり、完璧にリスクを抑え込むのは難しい」とみる。
 国内の感染状況も予断を許さない。東京都では24日、前週の同じ曜日から100人以上多い570人の感染者を確認。前週の同じ曜日を上回るのは5日連続で、すでにリバウンドを起こしていると言える。インドで見つかり従来株と比べて感染力が強いとされるデルタ株も広がりつつある。
 それに加え、7月には各国から続々と選手団が来日する。昭和大の二木にき芳人客員教授(感染症学)は「五輪開会式までに感染を抑え込めるかは全く不透明だ。このままではバブル方式の中で選手や大会関係者のクラスターが発生し、バブルの外でも感染が広がる事態も起こりうる」と指摘。「国民の命と健康を考えると、感染状況によっては中止を検討すべきではないか。開会できたとしても、その後に緊急事態宣言を出すレベルまで感染拡大すれば、ちゅうちょせず中止することも求められる」と強調した。

◆デスクメモ

 およそバブル、泡というのは「バブル経済」「泡と消える」という言い回しに代表されるように、すぐにはじけるはかないものを指すことが多い。菅首相の言う「安心安全な大会」の決め手が、まさに容易にはじけると分かったこの「泡」というのは、無理がありすぎるのではないか。 (歩)

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